見た目はきれいなビニール細工だけど不用意に触ってはいけない、そんな厄介な生き物が様々な場所の浜に打ち寄せているようです。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
浜に打ち寄せた美しい生き物
先日、沖縄本島の南部にある観光地・瀬長島に、見慣れない物体が数多く打ちあがっているというニュースが報じられました。
打ちあがったものはビニール製品のような質感の透き通った青い物質で大きさは数cm程度。波打ち際に点々と続くように転がっていたといいます。
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また沖縄でのニュースが報じられた数日後には、遠く離れたアメリカ・カリフォルニア州の海岸にも同じ物体が打ち上がったそうです。こちらではなんと浜辺を埋め尽くすほど大量に打ち寄せ、まるで青い絵の具を垂れ流したように見えたといいます。
危険な「カツオノカンムリ」
この物体は「カツオノカンムリ」という生物です。
普段は沖合に生息し、海面を漂流しながら魚などの小動物を餌にして暮らしているのですが、強い風が吹くと流され、浜辺に打ち寄せられます。特に外洋に面した場所では、しばしば大量に打ち上げられ、今回のように話題になります。
カツオノカンムリ、という名前を聞いたことがある人は多くないかもしれません。しかし、あの「カツオノエボシ」と似た生き物であると聞けば、イメージが湧く人は少なくないのではないでしょうか。
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実際のところ、その見た目や色合い、しばしば大量に打ち上がる点など、カツオノカンムリとカツオノエボシには共通点が多くあります。彼らはいずれも「刺胞生物」という大きなグループに含まれ、不用意に触ると刺胞というミクロの毒針で刺されて痛い目に遭います。
カツオノカンムリの毒性はカツオノエボシほど強くはないですが、体質によっては強めの症状が出ることもあるため注意が必要です。
ヒドロ虫はクラゲではない
さて、今回打ち上げられたカツオノカンムリについて、一部のメディアでは「毒クラゲが大量に漂着」という報道がなされています。
これは広義において間違っているというわけではないのですが、実はカツオノカンムリやカツオノエボシは狭義の「クラゲと呼ばれる生き物」とは異なるものです。
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これらの生物は「ヒドロ虫綱」というグループに含まれるのですが、一般的なクラゲであるところのミズクラゲやエチゼンクラゲは「鉢虫綱」というグループです。これは言ってしまえば哺乳類と鳥類くらい異なるものであり、分類学の上では全く違う生き物だと言えます。
形態学的にも大きな違いがあります。それは、狭義のクラゲが「1匹で1つの活動体(個体)」なのに対し、ヒドロ虫類は「たくさんの個体が集まって1つの活動体」であるという点です。カツオノエボシやカツオノカンムリは「群体クラゲ」とも呼ばれ、数多くの個体が集合して1匹の生き物のように振る舞っているのです。
さらに言うと、その質感もゼリーに例えられるクラゲと、ビニール製品そっくりのヒドロ虫ではかなり違います。ただしクラゲもヒドロ虫も刺胞毒を持ちますので、触って確かめることは慎みましょう。
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<脇本 哲朗/サカナ研究所>
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