昭和~平成前半あたりに生まれた人、特に昭和の民なら共感してくれるのではないでしょうか……「缶クッキーを独り占めしたい!」というロマン。

 ちょっとした特別なときやお中元お歳暮などで家へとやってくる「缶クッキー」。子ども時代の私にとってはとても特別な存在でした。今では四角い箱形のものが主流ですが、昭和50年代生まれの私が子どもの頃よく目にしたのは「丸缶」のクッキー。この丸缶クッキーがほんとうに特別な存在だったのです。

■ 特別なお菓子「缶クッキー」

 私が子どもの頃は既に沢山のお菓子が売られていました。ポテトチップスなどのスナック菓子から、チョコレート、種類数は恐らく今とそう変わりはない時代だったと思います。そして昭和の終わりといえど駄菓子屋が数多く存在していた時代です。

 しかしながら、我が家に時々やってくる「缶クッキー」だけは中でも特別な存在。滅多に食べられない高級品という位置づけだったのです。

 3人きょうだいという事もあり、食べるときはもちろん「均等に」山分け。(それでもしょっちゅうモメていた)

 缶クッキーの中には、プレーンタイプから、ちょっとお砂糖がのったもの、あと何より思い出深いのが「赤や緑」のジャムがのったクッキーなどが入っていました。私はこの赤や緑のジャムが少し苦手で山分けのときは避けていましたが、「これが一番好き!」という人も勿論多くいます。

 そしてもう一つのお楽しみが、2段目の存在。缶クッキーは中身で上段、下段とわかれた2段入りの場合が多く、上下ともに入っているクッキーの種類は同じ。1日目は1段だけ、2段目は別の日のおやつ、もしくは来客用にとっておく。保存場所は冷蔵庫の上や茶だんすあたりが定番でした。

 そんな子ども時代を過ごしてからうん十年……。すっかり当時の事なんか忘れきっていたのですが、ある日訪れたスーパーで偶然にも「缶クッキー」の特売が行われていました。記憶ってすごいですね、子どもの頃みた缶デザインに似ていた事もあり、見た瞬間思い出がぶわっとよみがえってきました。

 次に出てきたのが「今なら“誰にも邪魔されずに独り占め”できるんじゃ?」という欲望。

 あの頃夢見た「缶クッキー独り占め」が、大人になった今だからこそできる事に気がついたのです。

■ 子どもの頃の私へ あなたの夢を叶えたよ!

 購入した缶クッキーを早速自宅へと持ち帰り開封……パカっ。購入したものは残念ながら1段だけでしたが、あれからうん十年すぎた私の胃袋にはこれで十分。しかも今では一度に食べられる量ではありません。「独り占めした事実」だけを満喫できればいいのです。

 誰にも邪魔されず、誰の手も伸びてこずに、一人でゆったり向き合える缶クッキーとの時間。あれから四半世紀以上の時がすぎて叶えた時間はまさに至福。

 結局のところ1/3も食べれば十分だったわけですが、「独り占めした」という体験を得られただけで大満足。

 あの頃の私に教えて上げたい「大人になって夢を叶えたよ!」と。非常にどうでもいい事ではあるのですが、どうでも良いからこそ記憶に残り続けた「あの頃の夢」。叶った瞬間はほんとうに最高でした。