かつての東京では、都心の道路の渋滞は珍しくなかったから、タクシーに乗ることは、時間と費用に関する大きなリスクを伴うことであった。余計に時間がかかって、料金も高くなる、その不合理を承知のうえで、タクシーのほうが快適だと思える人にはよくとも、多忙で厳格な時間管理のもとで活動する人にとっては、適切な選択肢でなかったのである。
逆に、今の東京では、都心の道路の渋滞が珍しくなった。それでも、タクシーに乗れば、余計に時間がかかって、料金も高くなるという不合理は、運転手が不適切な経路を選択したときに避け難く生じる。この不合理から起きる紛争を回避するために、事前に、運転手が顧客に希望の経路を聞く慣行になっているわけだが、このことは、専門家である運転手が素人の顧客の判断をあおぐという別の不合理を生じさせている。

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現在の慣行は、その本来の主旨においては、顧客が経路を指定することは稀で、運転手に判断が一任される前提のもとで、運転手が事前確認のために最適経路を提示し、それに顧客が同意することをもって、理想形にしているのだと思われるが、実際には、その主旨は貫徹していない。