演説が好きで自信がある政治家は聞く者をなるほどと頷かせることに長けているが、失言も結構あって、発言後、物議を醸す。舞台が大きければ政治家も否応にも高揚し、自制が利かなくて、問題発言をすることもある。問題は、そのような状況に陥った場合、そのダメージを如何に必要最小限に抑え、マイナスの影響が広がらないようにするかだ。専門用語では“ダメージ・コントロール”と呼ばれる「事後処理」だ。

ベアボック外相と中国の泰剛外相(2023年4月14日、北京で、中国政府公式サイトから、写真/新華社)

当方がこれから何を書こうとしているか賢明な読者ならば既にお分かりだろう。欧米諸国で今、フランスのマクロン大統領の訪中での発言問題が大きな波紋を呼んでいる。マクロン大統領は習近平国家主席から手厚い接待を受けたこともあって、ついつい本音が飛び出してしまった。ズバリ、「欧州は米国主導の外交に追従するのではなく、欧州独自の外交を推進すべきだ」と強調し、特に、台湾問題で対中強硬政策を進めるバイデン米政権に距離を置く発言をした。もちろん、マクロン大統領の発言は習近平主席を喜ばせたが、米国と欧州諸国から激しい批判の声が上がってきた。米共和党議員の中には、「それならば、米国はウクライナ戦争を欧州に委ねるべきだ」といった意見まで飛び出してきたのだ。マクロン大統領の訪中での発言から欧州と米国の関係に亀裂が入る危険性が出てきた。

ところで、マクロン大統領が訪中を終えた直後、ドイツのアナレーナ・ベアボック外相(「緑の党」)が中国を公式訪問した。ベアボック外相はマクロン大統領の問題発言を既に聞いていたから、欧州の対中政策、台湾危機、ウクライナ戦争などについて、ドイツの立場というより、欧州の立場を再度はっきりと説明した。以下、ベアボック外相のダメージ・コントロールだ。

ベアボック外相は13日、先ず湾岸都市の天津市を訪問し、独連邦外務省の提携校のドイツ語クラスを訪問し、そして天津市にある風力タービンメーカー向けのギアボックスを製造するドイツの企業フレンダ―社などを視察した。そして北京に飛び、14日は中国の秦剛外相と会談した(15日は中国の外交問題のトップの前外相の王毅・共産党政治局員や韓正副主席と会談予定)。