このように多くのスタジオが競争して新しい才能が新しい作品に挑戦する結果、ハリウッドは今やアメリカ最大の輸出産業になった。
それに対して日本では、ジャニーズ事務所のうち収益を上げる1割以下のタレントの高額のギャラを、他の9割の売れないタレントの給料として分配している。SMAPのように売れているタレントが独立すると売れないタレントを養えなくなるので、彼らを使うテレビ局には他のタレントも出さない。
このようなタコ部屋のカルテルのおかげで、芸能界にもテレビ局にも競争がないので、独占利潤は維持できるが、決してグローバルな才能は生まれない。
日本社会に遍在するタコ部屋システムこれは芸能界だけの問題ではない。これからサービス業が経済の中心になると、もっとも高い収益を上げるのは、ITやファイナンスなどのハリウッド型産業だが、それは芸能界に劣らずハイリスク・ハイリターンの世界だ。
IT企業はハリウッドのスタジオのような専門家集団になる。その中心はエンジニアやプロデューサーのようなクリエイターで、ホワイトカラーはスターをサポートする芸能マネジャーのような存在だ。それは偶然ではない。情報機器はもはや事務機ではなく遊び道具であり、IT産業はエンターテインメントに近づいているからだ。
ところが日本では、中核業務であるソフトウェア開発が下請けに出されているため、エンジニアは低賃金・長時間労働を強いられ、技術が親会社に蓄積しない。この原因は、雇用慣行である。大企業では社員を解雇できないので、専門的な技能をもつ人材を直接雇用すると、その技術が必要なくなったときクビにできない。
そこで社員としては何でも屋のサラリーマンを雇い、専門的な仕事はタレントにやらせ、売れっ子をカルテルで囲い込む。こういうタコ部屋システムは、業界のメンバーが固定しているローカル産業でしか成り立たない。それを「メンバーシップ」とか「すり合わせ」などと美化しているかぎり、日本企業にもメディアにも未来はない。