今、アメリカでは預金移動が起きています。S&Lが起きた時と同じです。より安全そうな大手銀行に預金が動いているとされます。しかし、ブルームバーグによるとその大手すら預金流出に苦しんでいるというのです。第1四半期の大手3行(JPモーガン、ウェルスファーゴ、バンクオブアメリカ)では1年前に比べ約70兆円の預金流出が起きています。今回も結局、S&L問題が起きたときとまったく同様に証券会社に資金が動き、MMFが買われています。この資金移動がもたらす金融機関の歪みは解決できないのです。
シリコンバレー銀行がなぜ、潰れたか一言で説明せよ、と言われたら私はこう答えます。
「銀行業における預金と貸し出しのバランスを崩した」と。
かつての取り立ては銀行の前に人が並んだので予兆は分かりました。日本では女子高生が銀行を破綻の瀬戸際まで追い込んだ例もあります。それが1973年の愛知県の豊川信用金庫事件で女子高生3人が「信用金庫は銀行強盗に襲われるから危ないよ」と同行に就職が決まっていた同級生にジョークで言ったことがとんでもない流言となり、最終的に当時のお金で20億円が引き出され、大変な騒ぎになったのです。当時は銀行は3時にシャッターが閉まったのです。今はネットバンキングで24時間引き出せるのです。これは怖いのです。
問題は銀行の預金と貸し出しのバランスが崩れた際のリスク対応です。預金に対する資産は貸出先であり、それ以外の余資は運用しています。多くは国債でしょう。仮に引き出しが急増したとします。金利が急上昇している中、銀行が国債を売却すれば大損です。この部分はS&L問題があった時と同じ背景、つまり、高金利下における銀行経営の脆弱性であります。
今、私はREIT(不動産投資信託)に着目しています。特にオフィスビルにウェイトが大きいREITです。理由は銀行の借り換えが困難になる可能性が指摘されているからです。背景はオフィスの空室率です。アメリカの3月のオフィス空室率は16.5%。ヒューストン、アトランタ、オースティンは20%を超えています。カナダも同様の空室率です。理由はオフィスの作り過ぎもありますが、リモートワークが増えたことと業務の効率化で管理部門の従業員が減る方向にある点です。
REITにとってオフィスの空室率が高ければ賃料は入らないし、テナントの契約更改では賃料は下がります。事実アメリカのリスティングの平均賃料は過去1年で1.6%下落の38.28㌦になっています。その上、借り入れ部分は金利高で利払いが増えます。一番怖いのがローンの借り換えの際、中小金融機関が借り換えに難色を示した場合です。これは困ります。ただ、概ね、シンジケートローンで旗振り役の大手銀行が増えた預金ベースに貸し出し維持をして乗り切ると思いますが、そうすれば中小銀行の食い扶持が無くなるということです。
S&L問題は時間をかけてゆっくり進行した問題でした。今回取りざたされる信用収縮もシリコンバレー銀行のように突如起きるというより、予兆なり、兆候は見えると思います。が、FRBが利上げを止めない限り、この問題のリスクは払しょくできないということであります。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年4月14日の記事より転載させていただきました。