上場後、投資家が注視するポイントは?
トライアルホールディングスの上場が大変楽しみであり、資本市場の注目度も大きいはずだと述べましたが、「資本市場的視点」で課題がないわけではありません。
ロードショー(IPO時の機関投資家向けプレゼンテーション)資料は上場時に開示されるまで待つ必要があるので、目論見書を眺めた結果を端的に述べると、最大の課題は売上高営業利益率、売上高経常利益率が2%にとどまっていることです。
ちなみに2022年6月期は連結売上高5976億円、粗利益率19%、営業利益率2.0%でした。
この売上高の規模はコスモス薬品では2018年5月期、2019年5月期の時期に相当します(トライアルとコスモス薬品では、販売構成と標準店舗売場面積は一致しませんが、九州発・ドミナント戦略・EDLPなどの類似点を踏まえ比較対象にしてみましょう)。この時のコスモス薬品の売上高経常利益率は4.5%でした。コスモス薬品は2004年11月に上場していますが、売上高経常利益率が3%を下回ったのは2008年5月期のみだったと記憶しています。
トライアルホールディングスの財務情報を見て感じることは、まず、一定のコスト競争力と好財務によって低価格を実現し、これが売上高や出店に好循環を産んでいること、顧客の厚い支持が窺えることです。
一方、オペレーション全体のコスト最適化がどの程度実現できているのか、ドミナント戦略の成果が十分に出ているのかという点については、もう一歩強いインパクトのある数値が欲しいというのが資本市場の率直な感想だと考えます。
今回の大規模な資金調達を契機に規模拡大と収益率の向上が両立すれば、資本市場の注目度は現状よりも大いに高まります。近い将来に売上高経常利益率が4%を超えることを期待したいと思います。
プロフィール
椎名則夫(しいな・のりお)
都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、米系資産運用会社の調査部で日本企業の投資調査を行う(担当業界は中小型株全般、ヘルスケア、保険、通信、インターネットなど)。
米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、独立系投資調査会社に所属し小売セクターを中心にアナリスト業務に携わっていた。シカゴ大学MBA、CFA日本証券アナリスト協会検定会員。マサチューセッツ州立大学MBA講師
提供元・DCSオンライン
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