GMS(総合スーパー)を核として様々な業態を育て、流通業界における影響力をおよぼしてきた双璧がセブン&アイ・ホールディングス(以下セブン&アイ、東京都/井阪隆一社長)とイオン(千葉県/吉田昭夫社長)だ。似ているように見えるが、よくよく比べてみると両社は意外なほど違った面を見せる。今回はこの2社の時価総額から、両社の実力と今後を占ってみたい。

セブン&アイVSイオン 「時価総額」から読み解く実力と今後
(画像=『DCSオンライン』より 引用)

小売業界の時価総額、トップ3は?

小売業における時価総額(株価×発行済株式総数)ランキング(23年3月29日終値ベース)は、セブン&アイが5兆2743億円で2位、イオンが2兆2447億円で3位につけている。なお首位は9兆231億円でファーストリテイリングが独走している。

セブン&アイの時価総額はイオンの倍以上だが、2022年2月期の連結売上高(営業収益)は、セブン&アイが8兆7497億円、イオンが8兆7159億円と拮抗している。

なぜ同じ売上でもこれほどまでに時価総額が違うのだろうか。

複数の要因で決まる投資家の評価

では、時価総額は誰が決めるのだろうか?

その答えは「投資家」である。

時価総額は株価と発行済み株式総数の掛け算である以上、株価が高い企業ほど時価総額は高い。だから投資家が選ぶ企業の株価は高騰し、時価総額を押し上げる。では投資家は何を基準に銘柄を選ぶのか、選んでもらうために企業は何ができるのか。

経済学者のケインズは株価を「美人コンテスト」だと評した。個人的な好みではなく、万人受けする、つまり大多数の投資家から人気を集めると思われる「美人銘柄」が選ばれるとする考え方だ。

その点も踏まえつつ、多くの投資家が株を買う際によりどころにするのが、テクニカルとファンダメンタルズだ。

テクニカルとは過去のチャートの動きから将来の値動きを予想するもので、企業がこれについて何か対処できることはない。一方でファンダメンタルズ(基礎的条件)は「企業の実力」そのもので、収益性・成長性・株主還元などで構成される。もちろん売上やシェアも時価総額に影響するが、投資家が選択するのは、むしろ稼ぐ力・伸びる力があり、株主に報いてくれる企業だ。

いよいよ、セブン&アイ、イオンの収益性・成長性を比較検証してみたい。

収益性はどちらに軍配が…

まず「稼ぐ力」収益性は、セブン&アイに軍配が上がる。

収益性を測る目安としておすすめしたいのが、売上高営業利益率だ。同じ売上高だとしても、原価を削って粗利益を増やし、オペレーション効率を上げて販管費を抑えれば営業利益は増える。

結果は、イオンの営業利益率が2.00%(2022年2月期)なのに対しセブン&アイの営業利益率は4.44%(同)と倍以上差が開いた。なおセブン&アイの実績は、小売業平均2.8%(経産省調べ)も大きく上回る。

セブン&アイはなぜ稼ぐ力が強いのか?セグメント別の業績を見ると、祖業イトーヨーカ堂を核とし現在も売上高の2割を占めるスーパーストア事業の営業利益率は1.03%にすぎない。

稼いでいるのはコンビニエンスストアのセブン–イレブンだ。売上の1割を占める国内コンビニ事業は、営業利益率は25.58%と驚異的だ。全社営業利益3876億円のうち2233億円、実に6割近くを国内コンビニ事業が稼いでいる。

一方、イオンの収益構造はどうか。イオンリテールなどのGMS(総合スーパー)事業とマックスバリュを中心とするSM(スーパーマーケット)事業の売上高は全体の6割を超える5兆6967億円に達し、セブン&アイのスーパーストア(1兆8107憶円)の3倍以上に相当する。

だが、その収益力は弱い。GMSのセグメント利益はわずかながら赤字で、SM事業の利益率も1.2%と低水準だ。売上の1割強を占めるヘルス&ウエルネス事業(ウエルシアホールディングスなど)が利益率4.06%と健闘するものの趨勢をひっくり返すまでには至らない。

つまり、イオンとセブン&アイでGMS・SMの稼ぐ力に大きな差はない。セブン&アイの稼ぎ頭はコンビニで、20%超えの収益率がグループ全体をけん引する。一方、セブン&アイにないイオンの強みの1つは他のフォーマットよりも成長著しいドラッグストアであるものの、その収益性ではコンビニに敵わない状況だ。

イオンの成長性を支えるのは…

では、成長性はどうだろうか。イオンは、2010年から2020年までの10年間で売上高を1.69倍に増やしている。CAGR(Compound Average Growth Rate:年平均成長率)は5.3%に達する。10年間増収を続け、とくに2014年2月期からの3年間は連続で2ケタ増収をたたき出した。同じ期間におけるセブン&アイのCAGRは2.6%だから、大きく水をあけている。大型ショッピングセンター(イオンモール)の国内外への積極的な出店とそれに伴うGMSの出店や、ドラッグストア事業の成長といった業態戦略と金融事業の拡大がけん引力となった。

ところが「成長性」に関する両社の状況は、2021年におけるセブン&アイの米国スピードウェイ社(コンビニ事業)買収により一転する。2021年~2022年の2年間でセブン&アイの売上は倍増した。グロスの売上高は2022年2月期にイオンをわずかながら抜き、2023年2月期はその差を拡げる見通しだ。

こうしたなかイオンは、コロナが収束をみせたことにより、デベロッパー事業の大きな回復が見込めるほか、ドラッグストア事業のさらなる拡大、アジアシフトの加速、国内でのネットスーパー事業の急拡大などで成長戦略を進めていく。

またセブン&アイは、3月以降、西武・そごうの百貨店事業を米国系ファンドのフォートレスに売却する予定だ。この事業譲渡が、さらなる時価総額向上につながるのか、イオンに逆転の秘策があるのか、今後に注目したい。

提供元・DCSオンライン

【関連記事】
「デジタル化と小売業の未来」#17 小売とメーカーの境目がなくなる?10年後の小売業界未来予測
ユニクロがデジタル人材に最大年収10億円を払う理由と時代遅れのKPIが余剰在庫を量産する事実
1000店、2000億円達成!空白の都心マーケットでまいばすけっとが成功した理由とは
全85アカウントでスタッフが顧客と「1対1」でつながる 三越伊勢丹のSNS活用戦略とは
キーワードは“背徳感” ベーカリー部門でもヒットの予感「ルーサーバーガー」と「マヌルパン」