秋の気配が近づいて来た。これからの時期は車中泊にとってベストシーズンと言っていいだろう。夏の車中泊は辛い。安全面やマナーの点からも停車中のアイドリングはできない。エアコンの使えない車内の温度は30℃近くまであがりとても寝れたものじゃないのだ。そんな暑かった夏も終わり、夜は車内でもだいぶ過ごしやすくなってきた。車中泊の旅はこのコロナ禍の時代ではなかなか適した旅の手段ではないだろうか。できる限り人との接触を減らし、自分のペースで旅を楽しむ事が出来る。新しい旅の形のひとつとしてオススメしたい。
思いつきだっていい。すぐに動けるのが車中泊の魅力。
富士山が見たくなった。今夏は様々な規制で毎年登っていた富士山に登れず、何か物足りない日々過ごしている。都内からも富士山を見ることの出来るスポットはたくさんあるが、目の前で見上げるあの雄大な姿は近くで見てこそのものがあるのだ。明日は仕事も休み。そう思ったら必要なものを積み込み、愛車を走らせる。こんな思いつきの旅には車中泊はすこぶる相性がいいのだ。私にとっての車中泊は旅を効率よく行うための手段であり、車中泊を快適にするためにいろいろと試行錯誤するのがこれまた楽しい。
車中泊場所の情報はあらかじめ得ておく。これだけで断然違う。
向かうのは山中湖。近くには峠があり、そこからの富士山がこれまた絶景なのだ。今回は山中湖の東側に位置する三国峠から早朝の赤富士を見に行きたいと思う。車中泊場所の候補は定番の道の駅や24時間利用できる無料駐車場が周辺にはいくつかあるようだ。四季問わず山中湖で車中泊をする愛好家は多く、インターネットで調べれば車中泊情報はたくさん出てくる。湖畔で車中泊してしまうと峠へは少し戻ることになってしまうので、効率を考えてさらに手前の足柄サービスエリアを車中泊地とすることにした。
足柄サービスエリアは御殿場プレミアムアウトレットにも近く、SA内に併設された複合商業施設EXPASA(エクスパーサ)足柄の充実度も高いので常に人気のあるSAだ。上下線共に駐車場は巨大なので一度くらい立ち寄ったことのある人も多いだろう。都心から東名高速道を走り、途中左ルート右ルートに別れたのち、再び合流した先にそのSAはある。足柄SAにはETC搭載車限定だが高速道出入口として利用できるスマートインターチェンジが導入されている。今回はあえてSA内の駐車場には駐車せず、このスマートICを使って一旦高速道を降りることにする。ただし、SAの駐車エリアに一度入ってしまうとスマートICは利用できなくなってしまうので、初めて利用する人は分岐の標識に注意して進んで欲しい。
スマートICを通過して道なりに進むと一般道に出る。ぐるっとまわってサービスエリアのちょうど裏手側に向かおう。その先にあるのが今回の車中泊場所『ぷらっとパーク』だ。
サービスエリアとは思えない、静かで快適な穴場の車中泊スポット
ぷらっとパークとは一般道からもサービスエリアの施設を利用できるようにと開放された一般道利用者向けの出入り口で、60台ほどの駐車スペースがある。ちなみに上り線側にも同じくぷらっとパークがあり、こちらはやや狭く約30台の駐車スペースだ。
サービスエリア内の広い駐車場を避けてわざわざこちらの駐車場に来たのには理由がある。足柄SAは大型車の利用が多く、特に夜間には長時間の休憩をとる物流系の大型トラックで駐車マスが足りなくなるほどの混雑だ。積み荷の関係で停車中のアイドリングを止められない事情もあったり、そういった大型車と普通車の駐車エリアがとても近かったり、そもそもSAなので車の出入りも多いので車中泊目線で考えると夜の静かな安眠はなかなか望めなさそうなのだ。
それに比べるとぷらっとパークの駐車場はとても静かで空いている。もともとこの場所はSA従業員の駐車場も兼ねているのでまだまだ認知度が低い事がその理由かもしれない。他の車の出入りの邪魔にならない奥のスペースに駐車することができた。到着したのは夕方日没前。さすがに寝るにはまだ早いので三密に気をつけながら少しSA内を散策してみよう。
EXPASA足柄の充実度をチェック
EXPASA足柄には24時間営業の飲食店やコンビニ、温浴施設やマッサージの受けられる有料ラウンジもある。ぷらっとパーク駐車場からSA内の施設に向かう途中には無料のドッグランや子供用の遊具もあり、サービスエリア単体としても十分に楽しめそうな充実度だ。
快適過ぎてつい長居したくなる。注目のスポット『足柄浪漫館』とは?
私が車中泊場所を決めるときに重視するポイントは、まず静かで安全であること。次にトイレ水場が近いこと。そして温浴施設が近くにあること。EXPASA足柄内二階にある「足柄浪漫館」の中にはカフェやお土産屋、富士山を眺められる展望テラスなどがあり、これらは全て無料で入場出来る。その一角にある「あしがら湯」は小規模ながら内湯、露天湯、サウナに水風呂も完備している。お湯は温泉ではないもののこちらも富士山の伏流水を使用しており、バナジウムを多く含むお湯の肌触りはとても柔らかい。料金は3時間まで大人平日680円、休日710円。営業時間はなんと10時から翌8時までの22時間営業。延長も1時間ごとに250円という激安価格だ。
あしがら湯の向かいには有料の金太郎ラウンジがある。通常使用では10分100円の料金がかかるのだが、あしがら湯利用者は時間内に限り無料で使用可能だ。足湯やマッサージチェア、もちろん無料wi-fiもある。至れり尽くせりな空間はつい長居してしまいそうな心地よさだ。
快適な環境の快適な車中泊
夕食後風呂に浸かりラウンジで少しまったりしてから駐車場の車に戻る。すでに陽は落ち、辺りは真っ暗だ。通路にはちゃんと街灯もあるので歩くのに不安は無い。施設から駐車場までは100mほど離れているので戻る前にトイレと歯磨きは済ませておきたい。駐車場に戻ると数台あった車はいなくなりほぼ貸切状態の車中泊だ。辺りは静寂に包まれ、聞こえてくるのは夏の終わりを惜しんでいる虫達の声だけだ。
足柄SAの標高は約400m。100m標高が上がると0.6℃気温が下がると言われているので単純に平地よりも2.4℃低い計算だ。朝晩はかなり涼しい季節になってきたので防寒用に掛けられるものを一枚用意しておく方がいいだろう。寝床の準備が完了したら明朝のために就寝することにしよう。朝日を浴びる富士山を見るために早朝4時半にはここを出発しなくてはならない。タイトなスケジュールだけにこの快適な環境で良質な睡眠をとれることはとてもありがたい。
日本一を独り占め。大人の贅沢な時間を過ごす
足柄SAから目的地の三国峠パノラマ台までは距離にして約18km。一般道で30分程の道のりだ。昨日高速道を降りたスマートIC出口付近まで戻り、行きとは逆の方向に向かう。北上する道は曲がり箇所を間違えやすいのでナビで目的地をしっかり設定しておきたい。迷った場合は富士スピードウェイを目指して走るといいだろう。富士スピードウェイ東側から県道147号線を山中湖方面に進む。ここが明神峠~三国峠へと続く入り口だ。全長約10kmの峠道は三国峠という名前の由来にもなっている通り静岡県~神奈川県~山梨県の三県にまたがる。ちなみに日本中には三つの国境が重なる場所を中心にいくつも三国峠が存在している。
標高1200mまでいっきに駆け上がり三国峠を頂点に山中湖側に下っていくワインディングは車で普通に走っているだけでもかなり爽快で気持ち良い。下り始めて間も無く視界が開け絶景が目の前に飛び込んでくる。美しい富士山のラインが現れ、その麓には半分雲海に隠れた山中湖が広がる。パノラマ台は富士山と山中湖が一緒に望めるスポットとして知られている。ただし駐車場は数台分しかないので日によっては争奪戦になることも覚悟しておこう。ここからの景色もとても素晴らしいのだが、私的にはここから少し上に戻った場所をオススメしたい。カーブの手前に100m程のストレートがあり、そこの路肩に数台車が停められるスペースがある。ここはストレートの道が富士山にまっすぐ向かってダイブするような感覚を覚える私のお気に入りの絶景ポイントだ。静寂の中で日の出を待つ。しばらくすると富士山の頂上から麓に向かいゆっくりと朝日が当たり始める。
赤富士は様々な気象条件が揃った状態で日の出から数分間だけ見ることができる珍しい現象だ。葛飾北斎が富嶽三十六景の中の『凱風快晴』で赤富士を描いているのは有名だ。主に晩夏から初秋にかけて見ることができ、その貴重さもあって古くから縁起物とされている。ちなみに冬季に冠雪した富士山に朝日があたって赤く見える状態は「紅富士」と言うらしい。若干雲が多い天候だったが真っ赤に染まる富士山を目の前にしばしその偉大さを堪能する。人間は圧倒的なものを見せられると動けなくなるものだ。5分程すると赤みは徐々に薄れ、辺りにも陽が射し始めた。少し車を動かしリアゲートを跳ね上げたら昨日足柄SAで汲んできた足柄の水を沸かす。水はあの山から長い年月をかけて流れて来たものだ。沸かした湯でドリップしたコーヒーは優しく、感慨深いものであった。
この場所から10分も走れば山中湖だ。湖畔の周回道路はドライブコースとしてもちょうどよい。これからの時期は紅葉も楽しめるだろう。観光スポットもたくさんあるので自分のお気に入りポイントを探してみるのはいかがだろうか。
東名高速道路は現在、年末にかけて大規模リニューアル工事を行なっています。車線を規制している場合もあるので工事スケジュールは確認のこと。
文・ndtk/提供元・男の隠れ家デジタル
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