昨年秋の最後の選挙の後でも、親西政党のGERB、PP、およびDBの票は、安定政権を発足させるのに十分だったが、ペトコフ党首と彼の同盟DBは、ボリソフ元首相時代の汚職と職権乱用を非難、GERBとの連合を拒否した。一方、ボリソフ元首相のGERBは昨年末にPPらが実施した選挙改革を「選挙操作への道を切り開いた」と非難してきた、といった具合だ。ちなみに、GERB、PP、およびBSPの3党は過去、ラデフ大統領によって新政府組閣を要請されたが、いずれも失敗に終わっている。

注目すべき点は、ブルガリアの政情不安を受け、ラデフ大統領がその政治的影響力を拡大してきていることだ。同大統領は2021年末の大統領選で再選されている。政治学者のリュボミール・ステファノウ氏は、「次の暫定内閣で、ラデフ氏は議会制共和国ではなく、大統領制国家として国を統治し続けるだろう」と予想しているほどだ(オーストリア国営放送Webサイトから)。

ところで、ブルガリアは冷戦時代から親ロシア傾向が強く、欧州連合(EU)の中でどの加盟国よりもロシアとの繋がりが深い。ラデフ大統領もその例外ではない。同大統領はウクライナへの武器供給を要求した人々を「戦争挑発者」と呼んでいる。昨年秋、議会の親西側勢力はウクライナへの軍事援助を強行したが、ウクライナへの武器供給問題は、今回の選挙争点ともなってきた。

政治的膠着状態は、ブルガリアの発展に具体的な影響を及ぼしている。2024年に予定されているユーロ圏への参入は25年に延期される可能性が出てきたのだ。

国際社会の多様化、政治的多様化を受け、選挙後安定した政権を発足させることが益々難しくなってきている。例えば、ドイツでは戦後初めて、3党連立政権(社会民主党、緑の党、自由民主党)が発足したように、単独政権はもはや不可能で、2党連立政権の発足も次第に困難となっている。政治信条の全く異なる政党同士が政権を発足させるケースが増えてきているのだ。

ブルガリアでも米ハーバード大卒のエリートビジネスマンという触れ込みで新生党PPを立ち上げたペトコフ氏主導の連立政権は実際は左派と右派政党の寄り合い所帯だった。ブルガリアが今回、安定した政権を発足させるか、「政府不在」を更に長期化させるか、同国の国民議会選挙の投票結果とその後の組閣工作の行方が注視される。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年4月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。