さらなる加速が必要な構造改革
今後、鉄道など既存の事業と、銀行ビジネスなどの結合によって、JR東日本の事業分野はさらに拡大するだろう。中長期的に、利用者にとってJR東日本の金融ビジネスの満足度は高まり、わが国金融セクターで同社が競争力を発揮することも十分に考えられる。そのための資金を獲得するために、構造改革はこれまで以上に強化されるだろう。
その一つとして、赤字に陥っている地方路線の見直しは加速する公算が高い。2022年7月、JR東日本は初めて路線別の収支を公表した。2019年度、利用者が少ない(一日平均、2,000人未満)地方路線(35路線、66区間)のすべてが営業赤字だった。発表に踏み切った根底には、このままでは鉄道企業として社会的な責任を果たすことは難しくなるという、経営陣の差し迫った危機感があったはずだ。縮小均衡から脱するために、JR東日本は銀行ビジネスに参入するなどして新しい動線を生み出し、鉄道利用需要を喚起しようとしているように見える。
現在、JR東日本は金融以外にも、不動産など非鉄道分野での取り組みを強化している。同社が過疎化の進んだ地域で再開発を進めると仮定しよう。それに合わせて、住宅購入のための融資、海外からの訪問者向け両替サービスや宿泊施設の予約などを一括して行えるアプリを配信する。それはJR東日本が、コロナ禍の発生をきっかけに世界的に増加したテレワーク、ワーケーションなどの需要をより多く取り込むことにつながるだろう。見方を変えると、輸送サービス、不動産関連事業、それの利用を支える金融サービスの新しい結合によって、過疎化が進む地方を訪れる人(関係人口)が増える可能性は高まる。それは、新しい動線を生み出し、需要を喚起することにつながるだろう。
そうした取り組みは一朝一夕に実現しない。しかし、迅速に取り組まなければ、地方路線の収益性はさらに悪化する。そうならないよう、JR東日本は銀行ビジネスの強化を急いでいる。経営陣の目線の先には、送金、決済、信用創造などの金融ビジネスに加えて、宿泊施設の予約など、新しい動線の創造を支えるメガアプリを生み出し、ある意味では自己増殖的に事業分野をさらに拡大する狙いがありそうだ。
(文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授)
提供元・Business Journal
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