相続税対策として贈与は有効な手段の一つです。相続時と贈与時のそれぞれに税金がかかりますので、トータルでかかる税金をいかに低く抑えるかがこれまでも考えられてきました。
しかし、その前提となるルールが令和5年度の税制改正で変更となります。贈与の2つの選択肢である暦年贈与と相続時精算課税制度に大きな変更があったのです。
この変更により、人によってはこれまでの最善の選択肢が変わる可能性が出てきます。一体、どちらの課税方式で贈与を行った方が節税につながるのでしょうか? 税理士の立場から、ケース別に解説をしていきたいと思います。

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そもそも、贈与には2つの選択肢があります。
一つは比較的知られている暦年贈与。贈与税の基礎控除を利用した方法です。
贈与税には基礎控除が設けられており、受贈者(贈与をもらう人)1人あたり、毎年110万円までが非課税となります。暦年贈与を上手く使って贈与していけば、少しずつ相続財産を減らしていくことができ、相続税対策として有効です。
もう一つの選択肢が、相続時精算課税制度です。
相続時精算課税を選択した場合、2,500万円までの贈与は贈与税が課税されません。しかし、贈与した人が亡くなった場合は、相続時精算課税制度を利用して贈与した財産を、全て相続財産に足し戻して、相続税を計算することになります。
これまで相続時精算課税は「贈与税の支払いを相続時に先送りしているに過ぎず、財産が相続税の基礎控除以下の場合にしか節税効果がない」といわれてきました。
それぞれの制度と変更点についての詳しい解説は、以前執筆した下記の記事を読んでもらえればと思いますが、これまではどちらかというと暦年贈与の方が使い勝手が良かったといえます。 (参考:「定番の相続税対策「暦年贈与」の効果が今後は薄まる理由」、「2,500万まで贈与が非課税になる「相続時精算課税制度」税制改正で使い勝手が向上 」)
税制改正で一概に暦年贈与の方が有利とは言えなくなるこれまでは相続時精算課税制度を利用して贈与した財産は、贈与した人が亡くなった際に全て相続財産に足し戻す必要がありました。
しかし今回の税制改正により、相続時精算課税制度にも暦年贈与と同等の基礎控除が創設されました。基礎控除110万円以下の贈与は持ち戻されないことになり、相続税の基礎控除を超えて財産のあるケースであっても相続税の節税効果を持つことになります。
また、暦年贈与にも今回の税制改正によって増税となる変更が加えられます。
現行では、相続開始前3年以内の暦年贈与分については、亡くなったときの財産に戻され、相続税の課税対象になりました。相続税負担を軽くするための、亡くなる直前の駆け込み贈与を防止するための規定です。
このいわゆる「持ち戻し期間」が、今回の税制改正で7年に延長されることになったのです。つまり、亡くなる前7年の贈与が相続財産に加算されることになり、結果的に相続税の増税となります。
これらの変更により、一概に暦年贈与の方が有利とは言えなくなりました。