「米や小麦に虫が湧いている」のを見たことがあるかもしれません。
毎年、世界中の何千トンもの穀物が、コクゾウムシやコクヌストモドキなどの甲虫によって食べられています。
しかも彼らは生涯水を飲まなくても大丈夫なため、極度の乾燥に耐えて、あらゆる場所に忍び込み繁栄します。
今回、デンマークのコペンハーゲン大学(University of Copenhagen)生物学科に所属するケネス・V・ハルバーグ氏ら研究チームは、コクヌストモドキがお尻を使って空気から水分を吸うメカニズムを解明しました。
このメカニズムを利用するなら、穀物を食べる甲虫類をターゲットにした環境にやさしい殺虫剤を開発できるかもしれません。
研究の詳細は、2023年3月21日付の科学誌『Proceedings of the National Academy of Sciences』に掲載されました。
甲虫が世界中の食料を食い荒らしている
意外かもしれませんが、地球上の動物種のうち、5種類に1種類は甲虫類です。
昆虫類だけでなく動物全体においてコウチュウ目は最大の存在であり、種名のあるものだけでもおよそ40万種です。
しかも未だに、次々と新しい種類が発見されているのです。

この甲虫類が世界でも最大のグループである理由は、彼らが全く水の存在しない乾燥した環境でも生きていける点にあります。
彼らは驚いたことに、空気中に含まれる僅かな水分を吸収して生きることができるのです。
またこれら甲虫は、世界の食料生産に壊滅的な影響を与える害虫の1つでもあります。
実際、穀物を食べるコクヌストモドキ(学名:Tribolium castaneum)やコクゾウムシ(学名:Sitophilus zeamais)、ジャガイモに寄生するコロハドハムシ(学名:Leptinotarsa decemlineata)などは、世界の食糧の最大25%に侵入して被害を与えていると言われています。
極度に乾燥した地域でも生存できるコクヌストモドキやコクゾウムシは、発展途上国の食料に大きな影響を与える存在です。
これらの甲虫が厄介なのは、先にも述べた水分の無い環境でも生きられる生存力の高さにあります。
彼らは「お尻から空気中の水分を効率よく吸収できる」という特性を持っているため、液体の水を一滴も飲まずに生涯を過ごせるのです。

こうした特性は1世紀以上も前から知られていましたが、今までそのメカニズムが完全に解明されたことはありませんでした。
もし、この水分吸収メカニズムを解明できるなら、その特性を弱体化させるような新しい駆除方法を発見できるかもしれません。
そこでハルバーグ氏ら研究チームは、動物行動学及び食品安全研究のモデル生物でもあるコクヌストモドキを対象に、お尻で空気中の水分を吸収するメカニズムを分析することにしました。