頭に被るだけで機能する脳波コントロールシステム

グラフェンのイメージ
Credit:Canva

人間の頭は意外と複雑な形状をしているため、脳波を読み取るセンサーは分厚く硬いものだとうまく機能させることができません。

また頭皮は汗や油も多いため、こうした腐食に対する耐久性も必要になってきます。

導電性も高い必要があるでしょう。

こうした条件をクリアする材料として研究チームが目を付けたのが、グラフェンでした。

グラフェンとは炭素原子が六角形の格子状に並んだシートです。

1枚のグラフェンは1原子分の厚さしかなく、人間の髪の1000倍薄いと言われています。

しかし、その強度は「鋼鉄の200倍」であり、高い導電性と、腐食や汗に対する高い耐久性を備えています。

チームは、このグラフェンとシリコンを組み合わせることで、頭皮に密着する薄くて柔らかいセンサーを開発しました。

グラフェンセンサーの製造プロセス
Credit:Francesca Iacopi(UTS)et al., ACS Applied Nano Materials(2023)

画像から分かる通り、このセンサーはシリコンの土台上に柔らかいグラフェンを六角形のパターンに形成することで成り立っています。

これによりグラフェンセンサーは頭部の丸みに対応して頭皮との接触状態を高め、たとえ髪の毛があったとしても高い精度で脳波を検知できるというのです。

頭部にフィットして高い精度で脳波を検知できるグラフェンセンサー
Credit:Francesca Iacopi(UTS)et al., ACS Applied Nano Materials(2023)

そしてテストの結果、導電性ジェルを使用しなくても信号のノイズが少なく、湿式センサーと同等の感度を達成することに成功しました

これはラジオでたとえるならば、電波が途切れ途切れになって聞き取りにくくなるような状態がなくなり、クリアな音質で聞けている状態と言えるでしょう。

新しいグラフェンを利用した乾式センサーは、従来の湿式センサーと同じくらい正確でクリアな計測が可能だったのです。

ただし、毛深い人への対応や汗などによる導電性の変化は現在もノイズの原因として存在しており、より精度の高い信号取得については今後の研究課題となっていくようです。

そして今回の研究は、実際このデバイスでロボット犬の脳波コントロールについても検証されました。

ロボット犬を視覚と脳波で遠隔操作する

グラフェンセンサーを用いてロボット犬を遠隔操作
Credit:Australian Army_Mind-control robots a reality(2023 , UTS)

この新しいセンサーを試すために、ロボット犬の操作テストが行われました。

ユーザーはグラフェンセンサーを内蔵したバンドとARゴーグルを装着。

ARで表示される9つの異なるコマンドの中から1つを選び、注視することで、その脳波の変化を後頭部のセンサーが拾い、ロボット犬にコマンドを送信できました

研究チームによると、実験では「最大94%の精度でロボット犬をハンズフリーでコントロールできた」とのこと。

ロボット犬の脳波コントロール自体は、2022年9月にシドニー工科大学が公開した動画と同じですが、軍事用途のためかその詳細な部分は明らかになっていません。

それでも当時の動画からは、ARゴーグルを装着したユーザーが、ロボット犬を遠隔操作で歩行させている様子が映し出されています。

今回のグラフェンセンサーは、こうした軍事技術と同様にロボット犬を高精度で脳波コントロールすることが可能なようです。

そしてセンサーの進化でより利用しやすくなったこの技術は、軍事以外の様々な用途に応用できる可能性があります。

それは車椅子や義肢をコントロールするのにも役立つはずであり、今後のさらなる研究と進展が期待できます。

参考文献
Mind-control robots a reality
New graphene sensors make for better brain-machine interface

元論文
Noninvasive Sensors for Brain–Machine Interfaces Based on Micropatterned Epitaxial Graphene