納税者は税の控除の手続きを国に対して行い、住民税を納める地方公共団体には特に行わない。手続き内容は反映されるが、住民税には“地域社会の会費”という性格があるため控除額が異なる。その結果、住民税の有無や受けられる行政サービスに影響することもある。

住民税と所得税とで控除額が同じもの

税には個々の納税者の事情に合わせて額を調整する仕組みがある。所得控除と呼ばれるものもその一つだ。国税である所得税でも、地方税である住民税でも所得控除はある。所得控除とは、課税対象となる所得の合計額から認められた額を差し引くものだ。

所得税で所得控除を受けるには、会社が源泉徴収時に計算するものは会社に申告し(扶養者の有無や生命保険等の加入状況など)、医療費控除など会社が行わないものは確定申告で税務署に申告する。

一方で、住民税の所得控除を受けるために、個人が納付先の地方公共団体に特に申告する必要はない。所得税で申告した内容が住民税の納付先の地方公共団体に届けられるからだ(例外として、ふるさと納税でワンストップ特例制度を使う場合は、各ふるさと納税先の地方公共団体に特例の適用に関する申請書を提出する必要はある)。

所得税で定められた14種類の所得控除と住民税で認められるものとでは、寄付金控除を除いて項目は一致する。ただいくつかについては住民税の控除額のほうが小さい。所得控除のための申告は同じなのに、受けられる控除額が異なるのだ。そのため、所得税では控除の結果納税額がゼロか少額で済んだのに住民税は思ったより多く払わなくてはならないこともある。そこで慌てないよう控除額の違いを把握しよう。

所得税と住民税とで控除額が一致するのは4種類だ。社会保険料控除と小規模共済等掛金控除は前年中に支払った額がそのまま所得控除の対象となる。医療費控除や雑損控除も、控除額の計算式は所得税と住民税とで同じだ。

住民税と所得税と控除額が違うもの

所得控除の額が所得税と住民税とで異なるものもある。それは住民税が“地域社会の会費”という性質を持つからといわれている。

私たちの暮らしに身近な行政サービス、例えば、教育や福祉、消防活動やゴミの処理などは地方公共団体が行っている。これらの行政サービスのための財源が住民税だ。

これらは住民が広く負担を分かち合うものとされている。だから、住民税における所得控除は、所得税における所得控除の種類と金額の範囲内とされている。

所得税と住民税では、所得控除の中でも人的控除と呼ばれるもので異なることが多い。まず、誰にでも認められる基礎控除が異なる。2018年度については、所得税の2017年の所得控除が38万円だったのに対し、住民税は33万円と5万円少ない。なお所得税の基礎控除額が2020年から10万円大きくなる。それに伴い、その後に住民税も連動する部分が改正になる。地方公共団体から発信される情報に注意しよう。

その他の人的控除では、障害者控除の額も異なる。所得税の障害者控除で27万円が認められた人が住民税で認められる控除額は26万円だ。障害の等級1,2級の特別障害者として所得税で40万円の控除が認められた人の住民税所得控除は30万円で、同居している場合などで所得税の控除額が75万円の人は住民税では53万円となっている。

寡婦(寡夫)控除の額も異なる。本人の立場(妻か夫か)、扶養家族の有無、合計所得額で控除額が異なるが、所得税で27万円の控除が認められた人は住民税では26万円、所得税で35万円認められた人は30万円の控除額となる。

扶養控除も16歳以上の一般の扶養親族なら所得税で38万円の控除だが住民税では33万円だ。19歳以上23歳未満の特定扶養親族は所得税で63万円の控除で住民税では45万円の控除となる。70歳以上の老人扶養親族は所得税で48万円(同居で58万円)、住民税では38万円(同居で45万円)だ。

生命保険料控除でも控除額が異なる。所得税では2012年以降に契約した一般の生命保険料・介護医療保険料・個人年金保険料の控除最高額はそれぞれ4万円だが、住民税では2万8,000円だ。2011年以前に契約した一般生命保険料と個人年金保険料の控除最高額はそれぞれ5万円だが、住民税では3万5,000円となる。地震保険料は、所得税では最高5万円だが住民税では2万5,000円が最高額だ。

配偶者控除・配偶者特別控除は2018年に大きく変わった。後で詳しく述べるが、これも所得税での控除額の最高額が38万円であるのに対し、住民税では33万円と少ないことに変わりない。なお、70歳以上の老人控除対象者は所得税で控除額の最高額が48万円に対し、住民税では38万円となる。

本人が勤労学生である場合に勤労学生控除が受けられるが、所得税では27万円で住民税では26万円となっている。

「ふるさと納税」は寄附金控除で行われる

寄附を行うと所得税では所得控除が受けられるが、住民税では税額控除が受けられる。所得控除は課税対象額から差し引くものだが、税額控除は納税額そのものが減る。住民税での基本控除額は寄附金から2,000円を引いた額の10%が税額控除される。

この仕組みの中で、控除額についての例外として設けられたのが「ふるさと納税」だ。納税と言う名称がついているが、特定の地方公共団体に寄付をしたという形で取り扱われる。この「ふるさと納税」では一定額までなら寄附金から2,000円を引いた全額が寄附金控除として税額控除される。

正確に言えば、確定申告した場合は所得税での所得控除を受けた残りが住民税から税額控除され、確定申告しない場合(ワンストップ特例)にはすべてが住民税から控除となる。

どちらにしても「ふるさと納税」(寄附)をした金額の2,000円を超える金額は、所得税の還付か住民税の減額という形で戻ってくる。自分が寄付をしたい地方公共団体に寄付することで自分の住む地方公共団体への住民税が減るので、納税先を変えたのと同じ効果が得られる。ただし、自分が住む地方公共団体への住民税の所得割額の2割までという上限があることに注意したい。

変わる配偶者控除

既に所得税では配偶者控除・配偶者特別控除が改正され、38万円(老人控除対象配偶者は48万)を最大額として、納税者本人と配偶者の所得次第で控除額が小さくなる制度となった。住民税でも同様に、33万円を最大に所得に応じて控除額が小さくなる点は上でのべた。

ただし、所得税での改正が2018年で既に実行されているのに対し、住民税では2019年度から実施される。これは所得税が所得の発生時に課税しているのに対して、住民税では翌年度に課税しているからだ。住民税での配偶者控除・配偶者特別控除の変更に伴う納税額の変更は2019年度から始まる。

16歳未満の子の地方税での取り扱い

16歳未満の子どもは、所得税でも住民税でも扶養控除の対象とはならない。しかし、住民税では非課税限度額の算定に際して世帯人員数に含める。住民税の非課税基準は35万円×世帯人員の数+加算額で計算される。

加算額は、住民税のどの部分を非課税とするかで異なる。住民税は所得に関わらず定額の部分(均等割という。都道府県と市町村にそれぞれ年間1,500円と3,500円、合計5,000円)と、所得に応じた部分とがある(所得割という。都道府県に4%市町村に6%の合計10%)。

所得割が非課税となる場合の加算額は32万円だ。つまり、前年の総所得金額等が35万円×世帯人員+32万円以下で所得割が非課税となる。均等割では加算額が35万円×世帯人員+21万円以下となる。この非課税の計算での世帯人員に16歳未満の子も含まれる。控除とは異なるが、この基準を満たすことで住民税の負担がなくなる可能性がある。

これは国税にない制度で、形式的には所得税での所得控除の申告手続きとは別に行うものだが、納税者の利便性を考慮し、所得税の「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」と同じ用紙で申告することになっている。年末調整前に会社から「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を受け取ったら用紙の下部に注目してみよう。「住民税に関する事項」欄に年齢16歳未満の扶養親族の記載欄があるはずだ。

控除後の「所得割」額で異なる行政サービス

地方公共団体のサービスに所得制限がかかっていることがある。この所得制限の基準に、地方公共団体が住民税についての情報を用いることが多い。

地方公共団体が基準とするのは、収入、住民税の基礎控除後の総所得金額、市町村民税所得割額などだ。

収入に応じて決まるものとしては、就学援助や児童扶養手当が挙げられる。これらを受給できるか否か、受給できても全額か部分給付かが異なる。公営住宅の家賃の算定基礎額にも用いられる。

住民税の基礎控除後総所得は、国民健康保険の保険料の基礎となる。サラリーマン・OLは企業の健康保険組合か協会けんぽに入るので縁がないが、退職して自営業になるなら要注意だ。

控除をすべて使った後に算出された納税額が基準となる行政サービスも多い。市町村民税所得割額を判断基準に利用するものでは、保育園の保険料が代表的だ。自分の子どもの保育料が変更となったら、毎年6月頃に会社から渡される住民税の「特別徴収額の決定通知書」を確認しよう。その通知書の所得割額の欄の金額が保育料の基準となっているのだ。

障害者福祉サービスにも所得割額によって負担が生じることがある。例えば、自分や家族が障害を抱えつつ社会で働こうと就労移行支援サービスを受けようとする場合でも、市町村民税所得割額が16万円以上だと月に3万円以上の負担金が生じる。就労移行支援事業所での軽作業で工賃を得ても負担額に届かないと「お金を払って仕事をする」という状態になる。住民税の納税額が高いと福祉サービスが無料とはならないのだ。

教育の分野でも住民税の所得割額が問題となる。例えば、たいていの高校は月9,900円の就学支援が受けられるが、2018年7月支給分からは、保護者の市町村民税所得割額と道府県民税所得割額の合算額が50万7,000円以上の世帯では支給されなくなる。

生活に密着した地方行政サービスの中には、その地方公共団体への納税額(特に所得に比例する所得割額)で受けられる内容が異なるものがある。自分や家族が何らかの行政サービスを受けられるかどうか、負担なしが当然と思っていたのに思いがけず負担が生じないか、住民税の通知書にかかれた情報が重要となる。

所得税の控除については会社に書類を提出したり、家計の節約術として医療費控除を確定申告で行ったりするので、納税者が意識する機会が多い。一方、住民税は地方公共団体から一方的に納税額を知らされ徴収されるので意識することが少ない。

しかし、住民税は“地域社会の会費”としてその控除額が少ないため課税対象額が所得税より大きい。また住民税の納税額は地域行政のサービスの受給に関わってくる。所得税以上に、行政任せで無関心でいると思わぬ落とし穴があるものなのだ。

文・ZUU online編集部

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