米金融大手ゴールドマンサックス出身のシャープ氏は、リシ・スナク現首相の元上司でもあった人物で、与党保守党への献金者の一人で、ジョンソン氏がロンドン市長であったころ(2008~16年)から、ジョンソン氏と公私ともに親しい関係だった。

今回の理事長職の公募開始は、2020年10月。その後、ジョンソン氏は前妻への離婚慰謝料や養育費の支払い、首相官邸の改装費などで財政難に陥る。

これを報道で知ったジョンソン氏の遠縁にあたるカナダ人の富豪サム・ブライス氏は、旧友であるシャープ氏との夕食の場で、ジョンソン氏の借金の保証人になる可能性を提案した。

12月、シャープ氏は当時の内閣官房長官サイモン・ケース氏にブライス氏を引き合わせた。この後、両氏は首相の別荘チェッカーズ邸を訪れ、ジョンソン氏と食事を共にしている。同月末、官邸はシャープ氏に対しジョンソン氏の借金問題については今後関与しないよう告げた。シャープ氏がBBC理事長職に応募していたため、利益相反とみられることを防ごうとしたようだ。

翌21年1月上旬、当時のDCMS相オリバー・ドウデン氏がシャープ氏を省が推薦する理事長候補であると発表。そして2月、シャープ氏の理事長就任が決定した。

1月、「サンデー・タイムズ」紙は、シャープ氏が引き合わせをしたことをDCMSの査定委員会に通知しておらず、就任前の通例となっている、下院委員会での質疑応答の際にも言及していなかったと報道した。応募の条件として「利益相反の場合は届け出をする」ことになっているのだが……。

「引き合わせをしただけ」?

「引き合わせをしただけ」なので、「問題ない」というのがシャープ氏の説明だが、個人的な問題の解決のために相談される位置にいる、ジョンソン氏の「お仲間の1人」だったことは否めない。また、ジョンソン氏側に「友人を優遇する」気持ちがなかったのかどうかも気になる。BBC内での調査が行われているが、はたしてどんな判定になるか。

筆者は、シャープ氏は辞任するべきだと思う。就任当初から、対BBC強硬派のジョンソン政権の意向に沿った意見を出しており、「BBCの側に立って、その権利を守る」姿勢に欠けているように観察してきたからだ。その上、縁故採用の疑惑が出た。「やっぱり・・」という感じがある。

選考過程の前後を振り返ると、ジョンソン氏が「自分と仲の良い人」を選んだのは明白で、辞任によって、新しいスタートを切るべきだ。

BBC Chairman(BBC理事長)とは

BBCの戦略的方向性を決める「BBC理事会」を率いる職。非常勤で任期は4年、報酬は年間16万ポンド。必要経費は別途支給で、週に3~4日の勤務となる。BBC理事会は定員14人だが、現在13人が在籍。理事長を含む7人の非業務執行理事のほかに、デイヴィー会長など執行委員6人もメンバー。理事会は年に11回会合を持つ。

(在英日本人向け雑誌「英国ニュースダイジェスト」に掲載された、筆者コラム「英国メディアを読み解く」に補足しました。)

編集部より:この記事は、在英ジャーナリスト小林恭子氏のブログ「英国メディア・ウオッチ」2023年3月22日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「英国メディア・ウオッチ」をご覧ください。