「川一面が魚の死骸に覆い尽くされる」

そんな地獄絵図が今、オーストラリアで起こっているようです。

ニューサウスウェールズ州政府は先日17日、同州の最西端の町メニンディー(Menindee)を流れるダーリング川で数百万単位の魚が大量死していると発表しました。

SNSに投稿された動画には、何十キロにもわたって川を覆い尽くす大量の魚が映されています。

一体なぜこのような事態が発生したのでしょうか?

地元住民「マスクをしなければ立っていられないほどの悪臭」

こちらが先日17日(金)にTwitter上に投稿されたダーリング川の状況です。

一面に魚の死骸がぎっちり詰まっており、川がほとんど見えなくなっています。

州政府の漁業報道官であるキャメロン・レイ(Cameron Lay)氏は「見渡す限り魚がいる場所が何十キロも続いていおり、非常につらい光景です」と話しています。

メニンディーは都市部から離れた田舎町であり、人口は約500人と少ないですが、住民はこの地獄絵図に不安の色を隠せません。

地元の自然写真家であるジェフ・ルーニー(Geoff Looney)氏は、先週16日(木)に現場で魚の大量死を目撃し、「悪臭がひどく、マスクをしなければ立っていられないほどでした」と話します。

また「ダーリング川の上流の水は町のポンプ上にも流れ込んでいるため、自分の健康が心配になりました」と続けます。

数百万匹におよぶ魚の大量死はなぜ起こった?

こうした野生下での魚の大量死は、現地で「フィッシュキル(Fish kills)」と呼ばれています。

フィッシュキルはどの時期でも発生する可能性がありますが、過去のデータによると、夏場の猛暑や気温の急激な変化で最も発生率が高まるという。

南半球に位置するオーストラリアは北半球とは季節が逆になり、12月〜2月が夏で、3月に入っても十分な暑さが残ります。

特にメニンディーは近年、干ばつと洪水の両方に見舞われており、同地域でフィッシュキルが起きるのは2018年以来3度目です。

2019年には、長引く干ばつと川面に大量発生した有毒藻類が原因で、約40キロメートルにわたり数十万匹の魚が死んでいます。

州政府は当時「残念ながらこれが最後にはならないだろう」と警告していましたが、まさにその予感は的中してしまいました。

しかも今回のケースは、前回の規模をはるかに上回る数百万匹の魚が被害を受けています。

ダーリング川を覆う魚の死骸(『Al Jazeera English』ニュースより抜粋)
Credit: Al Jazeera English – Millions of dead fish clog up Australian river near remote town(youtube, 2023)

州政府によると、マニンディーでは2月下旬から3週間ほど大雨が続いたことで、町が洪水に見舞われていたといいます。

そのせいでダーリング川が増水し、川魚たちが一挙に大繁殖していました。

ところが大雨が止み、洪水が引いたことで、川の水位が大幅に下がり、一転して大量の魚たちが死んでしまったのです。

州政府は「今回の魚の大量死は、洪水が引いたことによる水中の酸素濃度の低下(低酸素症)が関係している」と指摘。

加えて「暖かい水は冷たい水よりも酸素を保持しにくく、魚は温度が高いほど多くの酸素を必要とするため、現在も続くマニンディーの暑さが川の低酸素症を悪化させている」と説明しました。

それまで豪邸に住んでいた大家族が突然、四畳一間に押し込まれるようなものでしょう。

左:ボニーブリーム、右:マーレーコッド
Credit: en.wikipedia(左)、ja.wikipedia(右)

ダーリング川では、ボニーブリーム(Bony bream)といった小型の淡水魚から、マーレーコッド(Murray cod)などの大型魚まで被害を受けています。

ニューサウスウェールズ州西部の全域ではまだ暑さが続くため、今後もしばらく被害が拡大すると懸念されています。

参考文献
Millions of Dead Fish Blanket Australian River in Hypoxia Disaster
‘One million fish’ dead on the Darling River in outback NSW
How did millions of fish die gasping in the Darling – after three years of rain?