相続税対策は決して他人事ではない。2015(平成27)年税制改正で国税庁が相続税を強化したため、今までは課税を免れていた人たちにも相続税の網がかけられるようになった。適法に相続税対策を講じたいなら、生命保険の非課税制度の活用を検討するとよいかもしれない。

相続税強化により課税対象者が8割増

2015(平成27)年税制改正で相続税が強化された。目玉は基礎控除額の引き下げだ。

改正前は最低限度額5,000万円プラス法定相続人の数に応じて1,000万円が加算されてきた。それが改正により6割に縮減、最低限度額3,000万円プラス法定相続人の数に応じて600万円に見直された。

この税制改正によって、相続税の課税対象となる財産額の下限が下がり、課税対象範囲が拡大した。2015年に亡くなられた人(被相続人)129万人のうち、相続税の課税対象となるのは10万人、前年より8割も増えた。

被相続人に占める割合も8.6%と、前年より3.6ポイント上昇している。その他、超過累進税率の上限も50%から55%へ引き上げられ、さらに小規模宅地等に対する課税特例の適用条件も厳しくなった。

そんな中で、古くから活用されている相続税対策の1つ、「死亡保険金の非課税制度」が改めて注目を集めている。

死亡保険金の非課税制度の節税効果

●非課税枠は法定相続人1人につき500万円

戦後、死亡保険金の非課税制度が導入されたのは1951年、当初は相続人1人に対し10万円が非課税枠とされた。その後、税制改正により非課税枠は拡大を続け、1988年には法定相続人1人につき500万円とされ、現在に至っている。

なお金融庁は、税制改正要望事項として非課税枠の拡大を、1991年度より毎年のように求めている。30・40代世帯主の場合、平均的な死亡保険金の加入金額は2,000~2,500万円であり、非課税限度額と乖離が生じているというのが、主張の根拠だ。

●法定相続人の数とは−養子縁組で節税効果アップ

法定相続人の数は、基礎控除・死亡保険金の非課税・相続税の計算などに影響を与え、その数が多いほど節税につながる。

例えば、養子縁組制度を活用して相続人の数を増やせば、より節税効果がアップする。ただし何人でも認められるという訳ではない。

相続人の範囲や遺産分割割合は、民法によって定められている。ただし「法定相続人の数」の「法定」とは相続税法を意味し、民法に定める相続人よりその範囲は狭められている。

民法では養子の数に制限はないが、相続税法では法定相続人の数に含めることができる養子の数は1人(実子がいない場合には2人)までとされている。因みにこの規定は、1988年の税制改正で、租税負担の公平性確保を趣旨として設けられた。

ただし養子縁組が過度の節税目的と課税当局から認定された場合には、法定相続人の数への養子算入が一切認められない可能性もある。

なお再婚相手の連れ子と養子縁組した場合、特別養子縁組による場合は実子として扱われる。

保険料負担は要注意:恩恵が受けられないケースも

●死亡した本人“以外”が保険料を負担していた場合

例えば夫が亡くなり妻が保険金を取得したが、保険料を長男が負担していた場合には、この保険金は「長男から妻への贈与」とみなされる。

保険金の非課税は相続税に限った特例であり、贈与税の場合には適用されない。かつ、贈与税は税率(超過累進税率)が相続税より高くなる上に、基礎控除の恩恵も受けられない。

ちなみに1,500万円の保険金に対しては、40%の超過累進税率が適用され、475万円の贈与税が課される。

●保険金受取人自身が保険料を負担していた場合

一時所得として所得税が課される。ただし相続や贈与の場合と異なり、受取保険金そのものに課税されるわけではなく、負担した保険料及び特別控除額50万円を差し引いた額に1/2を乗じた金額が課税対象金額とされる。

●相続人以外が保険金を受け取った場合

死亡保険金の非課税制度の適用を受けることができるのは、相続人に限られる。本来の相続人以外(例えば亡くなられた方に子供がいる場合、兄弟は相続人に該当しない)が保険金を受け取った場合には、恩恵は受けられない。

本来の相続人であっても、相続を放棄した場合には適用除外となるので注意が必要だ。

相続税対策として勧められる4つの理由

相続税対策はいくつもあるが、その中で保険金の非課税制度が勧められる理由を4つまとめた。

●理由1 課税リスクが回避できる

中小企業主や資産家には、金融機関からさまざまな節税スキームが紹介されることが多い。

一方で国税局は、たとえ法令上は合法でもこうした新手の節税スキームを「租税回避行為」として認めないことがある。2016年には、持ち株会社を利用した相続税対策が相次ぎ否認された。

生命保険金の非課税制度は70年近く認められている制度であり、巷の節税スキームのような課税リスクを抱えることは無い。

●理由2 死亡後すぐに使える

被相続人の死亡後、相続人は相続財産をすぐには使えない。

例えば株式・投信・預貯金を引き出すには、被相続人の戸籍謄本(16歳まで遡った原戸籍謄本含む)、相続人全員が署名・捺印した遺産分割協議書(無い場合は委任状)、相続人全員の印鑑証明書(発行後6ヵ月以内)、払い戻しを受ける人の実印が必要で、取り寄せるにも手間がかかる。

特に夫が妻の生活を支えていたような場合、夫の死亡により、妻は当座の生活費にも困ることも考えられる。そうでなくても、葬儀や納骨など物入りの弔事も多い。

保険金なら被保険者の死亡後、保険会社に所定の書類(死亡診断書・パスポートなどの本人確認書類・保険会社所定の請求書)を添付して請求すれば、すみやかに受取人に対して支払われる。

免責事由への該当・告知義務違反・約款への抵触等に関し調査・確認や照会が必要な場合を除き、一般的には一週間程度で保険金が下りる。

なお保険契約で受取人が定められていれば、他の相続人の合意なども必要ない。

●理由3 遺産分割に有効活用できる

相続財産の多くが居住用不動産の場合など、複数の相続人への分配が難しいケースでも保険金は活用できる。

例えば長男が不動産を引き継ぎ、他の兄弟に不満が残る、という話はよく聞く。こんな時に、長男を受取人とする保険契約を結んでおけば、長男はその保険金を使って他の兄弟に配ることもできる。配ったお金が不動産の代償として機能するのだ。

「他の兄弟を最初から受取人にしておけば、いちいち配る手間が省ける」と考えるところだが、事はそう簡単ではない。

保険金は民法上の相続財産には含まず、受取人固有の権利とみなされる。兄弟たちが、保険金を受け取った上さらに遺産を要求する可能性もある。この場合、あくまで長男から渡すのがポイントだ。

●理由4 運用リスクの回避

賃貸不動産に対する課税価格の特例を活用した相続税対策は、やり方によっては節税効果が数千万円に及ぶ。その引き換えに、節税効果以上に損失を被る可能性も高い。

一方で保険金の非課税制度の場合、運用リスクを回避できる。超低金利政策の影響で、保険の運用利回りはここのところずっと低迷が続いているが、少なくとも元本は担保できる。終身保険の利回りは、商品を選べば20歳加入の場合なら支払保険料総額の110%以上、50歳加入の場合でも101%以上の利回りだ。

加えて、最近は持ち直しの兆しもみられる。2018年6月には明治安田生命が予定利率を0.30%から0.35%へ引き上げた。2018年3月期決算の基礎利益(一般企業の営業利益)が最高益を更新したのを受けての措置だ。

今後の税制見直しに要注意

生命保険金に対する相続税の非課税制度の趣旨は相続人の生活保障だが、「単なる節税目的に過ぎないのではないか」との見方は強い。

過去には会計検査院も、制度の利用者が資産家に偏っている点、相続人にも高額所得者が多く見受けられる点、被相続人死亡の年に加入した事例も見受けられる点を指摘し、制度の実効性検証を徹底すべきとしている。

財務省も「生命保険金に関する相続税の非課税制度は過去一貫して拡充を図ってきたが、昔と違って公的な社会保障制度も整備されていることから、特定の金融資産を優遇するような本制度は廃止・縮減をすべきだ」との立場をとっている。

本制度による税収減は500億円近くに上り、国の財政状況が逼迫する中で、制度が今後も継続する保証はない。

そうはいっても、本制度の利用件数は年間2.6万人におよび、相続財産に占める生命保険金も6,000億円近くに達する中で、制度の見直しを進めるのは容易ではない。

現に2011年の税制大綱には「算入すべき法定相続人を、未成年者・障害者・被相続人と生計を一にする者に絞り込む」改正案が盛り込まれたが、最終的に見送られた。

2017年税制調査会中間報告でも、議論の中心は個人所得課税に向いており、本制度の廃止・縮減は俎上にない。

将来の不確実性も見据えた上で節税以外のメリットも勘案しつつ、生命保険への加入を検討するのが得策といえそうだ。

文・ZUU online編集部

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