人の命を守るために開発を行うことと、環境を守って生物資源を保護すること。その両立は難しい時代になってきているようです。

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人の命を守るための工事でシロウオの漁獲量が激減【福岡・室見川】

室見川で伝統の「シロウオ漁」

福岡市の西部を流れる、市内を代表する河川である室見川。大都市の街中を流れる都市河川でありながら水質もよく、生物種が豊富であることで知られています。

人の命を守るための工事でシロウオの漁獲量が激減【福岡・室見川】福岡都心と室見川(提供:PhotoAC)

この室見川は「シロウオ漁」が行われていることでも有名です。これは、木製のやなを川の中に設置し、春に産卵のために遡上するシロウオを狙って漁獲するというもの。

福岡市民にとってシロウオは、ながらく春の味覚の代表的なものでした。

本年度は休漁が決定

しかし、江戸時代から続くこのシロウオ漁が、現在ピンチを迎えています。というのも、シロウオの漁獲量はここ十年にわたり減少を続けており、昨年度は2011年の10分の1程度となる26㎏しか獲れなかったのです。これではとても漁が成り立つレベルではなく、今年度は休漁が決まりました。

人の命を守るための工事でシロウオの漁獲量が激減【福岡・室見川】シロウオ(提供:PhotoAC)

福岡市などはシロウオ資源量を増やすため、河川内に石を積みシロウオの産卵場を造成したり、河床を掘り下げて流路を確保するなどの対策を行っています。しかし残念ながら、その成果は上がっているとは言えない状況です。

守るべきは環境か安全か

室見川は長らく、上流で河道の改修工事が行われてきました。

もともと室見川は流路の短さの割に勾配が急で氾濫を起こしやすく、現在でも大雨のたびに危険なレベルの水位になります。そのため絶え間ない浚渫工事と河道改修工事が行われてきました。

しかしそれらの工事の結果、下流域に大量の土砂が流れ、とくに河口域はとても浅くなり干上がってしまう場所も増えました。その結果、シロウオの産卵場となる礫が埋まり、産卵に不向きな環境となったために、シロウオの遡上が減ってしまったとみられています。シロウオが採れなくなったのは、人々の生命と暮らしを守ろうとした結果でもあるのです。

人の命を守るための工事でシロウオの漁獲量が激減【福岡・室見川】土砂が堆積し浅くなった下流域(提供:PhotoAC)

近年の異常気象により水害の危険性が大いに高まっていることは言うまでもなく、住民の安全を守るために改修工事は必要であったと思われます。ただその結果、福岡市は300年にわたる伝統的食文化と春の風物詩、そしてそれを取り巻く環境と生物多様性をも失いかけています。

やってきたことが正しいのか、環境を守るべきだったのか。どちらが正しかったのか、その判断は部外者である筆者には不可能なのですが、つい考えてしまいます。

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<脇本 哲朗/サカナ研究所>

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