江戸時代に造られた町屋が軒を連ね、時間が止まったかのような風情を残す城下町・飛騨高山。
当地に拠点を置く建築家とインテリアデザイナーが立ち上げた1棟貸しブランド「すみや」に、デザインヴィラ「すみや 葉隠れ(はがくれ)」が先月オープンした。「すみや 青花」「すみや 落水邸」に続く3棟目となる。
町に暮らすような滞在が実現する「すみや 葉隠れ」
日本三大美祭のひとつとされる、秋の高山祭が行われる高山市下一之町。高山城主の命により500年前に建てられた寺院の石垣に守られるように、ひっそりとたたずむのが「すみや 葉隠れ」だ。
高山祭の屋台を収める屋台蔵のようにデザインされた外観は、開業前から川沿いを散策するインバウンド旅行者の撮影スポットにもなるほど注目された。
建物は、高山城に仕えた武士の扶持人(ふちにん)の家として古地図に残る小さな町屋をリノベーションして生まれた。
中に入ると、古い建物らしい低い天井と控えめな梁が客人を迎える。町屋の宿としては珍しい、内外2か所のテラスと大きな半露天風呂が特徴的だ。
半露天風呂から続くのは、町屋でありながらも開放的なプライベートテラス。500年もの歴史を重ねて苔生した石積みを借景にする。
かつて高山城の堀の役目をした江名子川(えなこがわ)に面するテラスからは、桜や紅葉のライトアップを鑑賞できる。
春には満開の桜を臨む特等席に。川のせせらぎと行き交う町の人々の声を聴きながら過ごす読書の時間は格別だ。
「すみや」では、一般的な旅館のような直接対面しての接客はない。しかし「しつらいでおもてなしを」をコンセプトに、季節ごとのしつらいで歓迎の心を表す。
内装は和洋混在。教会のアンティーク扉や欧州のダイニングテーブル、同じく欧州アンティークのキュリオケースには、あえて和骨董の皿などをしつらえる。
「すみや」は、これまで全国各地の旅館やホテルをプロデュースしてきたデザイナーと建築家、世界中を旅する仕事を行ってきたメンバーで運営されている。
宿泊施設のインテリアは、なるべく手間がかからないようにという働き手視点で選ばれることも多いが、心がときめくものこそ日常を豊かにしてくれると「すみや」は考える。
素朴ながらも地産地消にこだわった朝食
朝食付きプランで予約した人には、地元食材にこだわった握りたてのおむすびを、調理スタッフ自らが部屋へ“そっと”届ける。別棟「すみや 青花」で好評のサービスだという。
内容は7種類の中から一人につき3種を選べるおむすびと、飛騨高山の老舗店の味噌を数種類ブレンドして作られた味噌汁、飛騨の郷土料理を盛り合わせた「在郷盛り(ざいごもり)」だ。
届いた朝食は室内の好きな場所で、自分のペースで堪能できる。素朴ながらも「今までで一番美味しい朝ごはんでした」と述べる客もいるという。