「自治体と何らかの形で協業したい」と通信会社、保険会社、自動車会社など、あらゆる分野の民間企業が自治体や地域とのつながりを求めています。
しかし、せっかく動き出したプロジェクトが、自治体についての基本的な知識が不足しているまま進めてしまうことで、頓挫してしまうことがあります。
問題を回避し、成功に導くために一般社団法人官民共創未来コンソーシアム 代表理事の小田理恵子氏に、「職員の異動と引き継ぎ」について解説していただきました。
相手を理解することは、円滑なビジネスを進めるための第一歩です。自治体とのビジネスにおいても同じことが言えます。「自治体ビジネスは難しい」と言われることもありますが、必要な情報を得ることでそのハードルを下げることができます。
そして、相手を理解し、対話をすることができれば、良きパートナーとなる自治体に出会うことができます。まずは、自治体を知ることから始めてみましょう。そこで、よくある相談内容を紹介します。
ケース①ある日突然、職員が異動し交渉が中止に
ある食品企業が、ヘルスケア分野での実証実験を行うために、ターゲット自治体に何度もアプローチを行い、担当職員との接点を作りました。実証実験に関する詳細な資料を作成し、説明を重ねた末、ようやく職員を説得することができました。
上司に報告し、プロジェクトが順調に進むと期待していた矢先に、交渉相手である職員が異動してしまいました。後任の職員の連絡先を教えてもらいましたが、連絡しても返事がなく、そのまま関係が途絶えてしまったとのことです。
企業は「ある日突然」と表現していましたが、実際に職員が異動したのは4月で、アプローチを重ねていたのは2月末から3月にかけてだったそうです。
自治体職員の人事異動は、通常毎年4月に行われます。もちろん、他の月に異動がある場合もありますが、4月1日付で一斉に異動が発令されるため、企業側はそのことを予測しておく必要があります。
また、自治体では職員の異動サイクルがだいたい2年から4年であることが一般的です。同じ組織に2年間在籍している職員は、「4月に異動する可能性がある」と考えておくことが望ましいでしょう。
民間企業から見ると想像できない異動サイクルかもしれませんが、自治体とはそういうところです。行動原理が根本的に異なる相手であることを理解することが大切です。
職員が自分の異動を知るのは、異動の1週間から2週間前だということです。転勤を伴う場合は早めに内示が出ることもあるようですが、職員が異動するのかどうかを事前に知ることはできません。
このように、相手先の職員が異動するかどうかは直前まで分からないため、関係づくりや交渉は4月の人事異動後に行うことをおすすめします。もう1つ、覚えておいてほしいことがあります。
それは国家公務員の異動時期です。全国の自治体には、1700名以上の国家公務員が地方自治体に出向しており(令和3年10月1日現在)、その組織や業務のキーマンが国からの出向者の場合もあります。
国家公務員の異動時期は7月で、省庁からの出向者はこのタイミングで国に戻ったり、他の自治体へ移ったりすることもあります。異動は通常国会閉会後に行われるため、国会スケジュールによっては時期が変動することもありますが、覚えておいてください。