ウクライナのゼレンスキー大統領は少し憂鬱になってきているのを感じる。ウクライナ東部ドネツク州の激戦地バフムトの動向を考えて、というわけではないだろう。この戦争をどのような形で幕を閉じることができるかで頭を悩ましているのだ。

リヴィウで開催された国際会議(United for Justice)で語るゼレンスキー大統領(2023年3月3日、ウクライナ大統領府公式サイトから)
ゼレンスキー大統領はこれまでクリミア半島を含むロシア軍の占領地を全て奪回するまで戦い続けると何度か表明してきた。そしてロシアのプーチン大統領との停戦交渉については拒否の姿勢を保ってきた。しかし、ここにきてゼレンスキー大統領は自身の考えを変えてきたのではないか。ロシア軍の攻勢がこれまで以上に激しくなってきたから、という理由ではない。
バイデン米大統領、欧州連合(EU)、北大西洋条約機構(NATO)の3本の柱のウクライナ支援団の結束が緩んできたわけではない。彼らは異口同音に首脳会談を開催する度に「ウクライナへ今後も支援を続けていく」と表明している。重火器供給で躊躇してきたドイツの同国軍事産業ラインメタル社はウクライナ国内で武器生産に乗り出す考えがあることを明らかにしたばかりだ。ただ、欧米諸国がウクライナ支援の続行を繰り返せば繰り返すほど、ゼレンスキー氏は「いつかは支援が来なくなるだろう」といった強迫観念が強まってくるのだ。