つい先日、「かゆみが治まったら薬はやめていいですか?」という質問を受けました。この方は目のかゆみで眼科を受診し、かゆみ止め効果のある「アレジオンLX点眼」が処方されていました。こういう時は「医師から何か説明を受けましたか?」と質問返しをします。その方は「特になかった」と答えました。
まず、みなさんが覚えておかなくてはならないのは、医師の指示なく処方薬の服用を中止することは原則ない、とうことです。そのため、薬がなくなるまで服用を続けるのが正解となります。そんな杓子定規なことを言われても困るでしょうから、その方の背景を探ります。幸いこの方はおくすり手帳を持参していて、過去の記録を見てみると例年春先にアレルギー剤の目薬とステロイドの目薬が処方されているのがわかりました。ここから推測するに、春の花粉症ということがわかります。花粉症対策の基本は花粉のピークがくる前の段階でアレルギー剤を使っておくということです。飲み薬にしても目薬にしてもこれは同じです。アレルギーを引き起こすヒスタミンの量を減らしておくことができるのです。ピークがきてもヒスタミンの量自体が少ないので大きな症状が出なくなります。
ところがこの事前準備をやらないと、ヒスタミンの量は変わらないのでピークがきたらそれに合わせて大きな症状が出るようになります。「目そのものを洗いたい」「鼻水がいつまでも出ていて息ができない」といった症状が連日続くようになります。それを鎮めるためにはステロイドを使って強力に抑えていく必要があります。ステロイドは必要な人には使わなくてはならないのですが、目薬として連日続けてしまうと、白内障や緑内障といった病気を引き起こすといわれています。飲み薬においては糖尿病を引き起こしたり、骨がもろくなったり、顔がむくんだりといった症状が現れます。事前準備をやっておけばステロイドを使う回数が減りますので、そういった余計な病気を引き起こすリスクを抑えることにつながります。
この方については「この薬は予防効果も併せ持つものなので、続けることで症状が今後ひどくならずに済むのです。先生から特別な指示がない限りは毎日続けて使うようにしてください」という説明で終了しました。これも「薬はやめていいですか?」という質問があったからこそお伝えできたことであり、ご自身で勝手に中止する人も多いです。
受診を控えたことで起こる悪影響
アトピー性皮膚炎でステロイド軟膏と保湿剤を処方された方で、前回の受診が半年前だという方がいました。さすがにこれは間隔が空きすぎていると思い、その方に事情をうかがうことにしました。そうしたら「薬を塗って治った」「薬がなくなったら悪化した」ということでした。
これでは治るものも治りません。アトピー性皮膚炎の場合、治療のゴールは「かゆみのないきれいな皮膚を維持する」ことです。これはどういうことかというと「完治」ではなくて「寛解」を目指すということです。寛解とは「症状が落ち着いていることが維持できている状態」です。アトピー性皮膚炎を完治させたいという心理につけ込み、悪徳業者があれやこれや言葉巧みに狙っていきます。そうした業者が紹介する高い商品を使ってしまい、適切な治療が中断してしまうことで症状が再燃してしまうという被害が多数報告されています。業者は患者にそれを「リバウンド」「デトックス」「好転反応」だと刷り込みしてきますが、単に治療が中断されて症状がひどくなっただけです。
炎症が軽くなって皮膚の表面上が正常に見えたとしても、皮膚の奥には炎症細胞が残っています。それはTARCという血液検査の指標から判断しています。そしてその炎症細胞はちょっとしたきっかけで再び火がついて表面に出現します。その小さな炎症に対して弱いステロイドを薄く使っていく治療法が「プロアクティブ療法」といいます。読んで字のごとく、活性される(アクティブ)前(プロ)に行う治療ということです。この治療により再燃を予防していくことができます。TARCという指標を見ながら薬のやめ時を医師が判断しています。患者ができることは面倒でも定期的に受診して治療を続けることです。プロアクティブ療法なら強いステロイドを使わないので、皮膚への負担を大きく減らすことはできます。
処方薬とは、医師が患者に用意したオーダーメイドの治療薬です。そして、その治療をよりよく行うために私たち薬剤師がサポートをしています。一方、市販薬は、多くの方に起こり得る症状に対し画一的な治療を行います。市販薬が扱うのは軽症です。その症状を自分で判断して薬を買い、それを自分で飲むのです。薬剤師はその判断が適切にできるようにサポートしています。市販薬の場合は治れば終了です。しかし処方薬を使用する場合、患者が治ったと自分で判断して服用を終了してしまうと、治るものも治らないといった悪影響が生じてしまうのです。
(文=小谷寿美子/薬剤師)
提供元・Business Journal
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