ビットコインなどの仮想通貨が投資対象として注目を集めている。ただし、通常の投資と同じ感覚で始めることは危険も伴う。これまでの投資とは異なる部分も多いのだ。従来の投資と仮想通貨への投資の特徴を整理し、その上でこれまでの投資にないような仮想通貨特有のリスクについて分析してみる。
従来の投資の特徴は?
仮想通貨の売買はそもそも投資なのか、それともギャンブルなのかという議論は絶えない。将来に利益を得るために資金を投下するという意味では、投資という特質を備えていると言えるだろうが、従来の投資と比較すると相違点が浮き彫りになる。まずは両者それぞれの特徴から見ていきたい。
個人投資家にとっての投資とは一般に「利益を見込んでお金を出すこと。」や「利子や配当を得る目的で社債や株式などを購入したり、土地などの不動産を購入して利益を得ること。」のように説明される。将来、得られるであろう収益を目的として、現在の資金を支出するのだ。
投資を検討する際、重要な要素の一つは“何に”投資するかだ。この投資対象によって、投資は大きく「金融投資」と「物的投資」に分類される。
「金融投資」は、株式、債券、投資信託といったものに代表される金融商品への投資だ。一方「物的投資」は、投資対象に物理的価値がある。具体的には不動産や金、プラチナなどへの投資が該当する。また、企業や個人事業者が事業として設備を購入したり、原材料を仕入れたり工場を建設したりすることも物的投資に含まれる。
金融投資も、多くの場合は、物的投資と間接的に結びついている。株式の向こうには企業組織が存在し、その先では物的投資が行われている。実際、企業の事業活動の多くは物的投資であり、その物的投資の内容により株価が左右されることも多い。
投資にはリスクに見合ったリターンが期待される
また物的投資にせよ、金融投資にせよ、将来に得られる利益はある程度理論的に推測できる。例えば、ある企業の株式に投資しようとする。株式を購入して保有することは、企業の一部を所有することと同義である。企業価値評価の手法はさまざまであるが、例えば、この企業が将来稼ぐであろう現金の額によって、この株式の理論価値をある程度推測できる。ある投資家は、この予測を利用して、株価が理論価値より低いと思われるときに購入し、理論価値を上回ったときに売却して利益を得ようとするかもしれない。
さてハイリスク・ハイリターン、ローリスク・ローリターンは投資に関する書籍などでは当然のように目にする言葉である。通常であれば、投資家はリスクの高い投資に対して、高い収益(リターン)を期待する。つまり、投資家は自分の投資がどれほどのリスクを負っているかをある程度把握できており、それに応じたリターンを求めて投資がなされる。
情報の非対称性を解消するための努力
「情報の非対称性」とは取引をする際に当事者の間に情報の差があることを指す。従来の投資、特に金融投資には情報の非対称性が存在するものの、政府機関をはじめこれを解消するためのさまざまな努力がなされている。
例えば、金融庁は、金融業界に向け2017年3月30日に「顧客本位の業務運営に関する原則」を公表した。その中には、顧客との情報の非対称性を解消するために金融商品・サービスの販売・推奨等に係る重要な情報を顧客が理解できるよう分かりやすく提供するように求めている。興味深いことにリスクとリターンの基本的な構造もその開示情報に含まれている。このような努力がなされていることで投資家が一層公平かつ透明な投資環境の中で安心して投資できるようになっている。
仮想通貨とは何か?
ビットコインに代表される仮想通貨とは、紙幣や硬貨のような現物を持たず、電子データのみでやりとりされる通貨のことである。とはいえ、企業が発行するポイントや電子マネーとも違った性質を持つ。それは管理主体として特定の組織が関与することはないということだ。また、「通貨」と呼ばれるが、特定の国家による価値の保証もない。高度な暗号化技術を用いているため、暗号通貨とも呼ばれている。
なお、日本の「資金決済に関する法律」によれば、以下の3つの性質を持つものが仮想通貨と定義づけられている。
・不特定の者に対して、代金の支払い等に使用でき、かつ、法定通貨(日本円や米国ドル等)と相互に交換できる
・電子的に記録され、移転できる
・法定通貨または法定通貨建ての資産(プリペイドカード等)ではない
仮想通貨の意義
概要や法律上の定義だけではなく、技術的実用的な側面から仮想通貨を見ていく。
仮想通貨は、通貨と呼ばれるものの従来の通貨の性質と全く違い、実物として存在しないのは特徴の一つだ。仮想通貨はインターネットを通じてすべての取引が電子的に記録されている。
例えば、仮想通貨で送金したり、買い物をしたりする際には、送金あるいは買い物できる仮想通貨の残高があるかどうかがネットワーク上で確認される。その後、取引の過程が全取引履歴データベース(ブロックチェーン)に記録される。そのすべてがコンピューターネットワーク上に分散されて、保存される仕組みで成り立っている。
また、仮想通貨を使う取引(送金、買い物など)は全世界で自由に行えることも大きな特徴だ。つまり国境を気にせずに送金や買い物できる。上述の通り、国などの管理主体は存在せず、非中央集権管理によって、成り立っている。通常の銀行送金などは銀行を経由して行うが、日本では営業時間外の送金は基本的にできない。
まして、国外に送金しようとするなら、さらに手続きが複雑になり、時間を要する。仮想通貨の登場により、これらの事情は一変する。かつて「銀行の営業時間内である」「クレジットカード保有者」という条件の中で行われてきた送金や資金の決済が、ほとんどの仮想通貨はインターネット環境が確保できれば、24時間決済可能となり、利便性が格段に向上した。また、国を跨ぐ送金でも両替の手間が発生しないため、為替の変動によるリスクを避けられるメリットも大きい。
匿名性も仮想通貨の一つの特徴と言えるだろう。ビットコインの場合、インターネット上では「ビットコインアドレス」によってビットコインの利用者を特定している。つまりビットコインで買い物をしたり送金したりする際、利用者の氏名などの開示は不要だ。ビットコインアドレスさえあれば、世界中のどこの誰かにも送金できる。こうした取引上の匿名性によって今非常に問題になっている個人情報紛失を避けることが可能だ。
ただし、はじめに個人情報の入力を必要とする取引所へ登録している場合や、現金化の際の口座の情報などとアドレスが結びついてしまう可能性から、匿名性を疑問視する声もある。また、こうした性質を逆手に取り、仮想通貨が不正な送金や取引などに利用されるケースも少なくない。
仮想通貨の特徴を具体例と共に取り上げた。インターネット上だけで使える暗号通貨、非中央集権管理および匿名性、これらの特徴から仮想通貨が従来の通貨が持っていない利便性があることを知ることができる。一方で、投資対象として不十分と言える部分も少なくない。
価格決定プロセスが不透明
仮想通貨の将来価値を従来の投資のように予測することは非常に困難だ。つまり、価格の決定プロセスの不透明性が存在しているのだ。米証券取引委員会もビットコインETFを承認しない理由の一つとして、これを挙げている。現状では多くの投資アドバイザーが仮想通貨への投資が非常にリスク的であるという認識を持っている。従来の投資で言うところのハイリスク・ハイリターンにあてはまるのかもしれない。
だが、ハイリスクの仮想通貨には、将来どれほどの確率でハイリターンが得られるかも知るのが非常に難しい。仮想通貨が登場してかなりの時間がたったが、仮想通貨には全く価値がないと言う専門家もいれば、仮想通貨が希少で将来に秘められた可能性から何十倍または何百倍もなると言う専門家もいる。また、多くの国で仮想通貨の使用によって金融秩序が乱れるという考えから、厳しい制限が課されている。このことも仮想通貨の将来の価格決定に影響するだろう。
情報の非対称性による不公平な取引がなされる可能性
仮想通貨の売買における情報の非対称性が大きいことも注意しなければならない。上述の通り、情報の非対称性とは取引をする際に当事者の間に情報の差があることを指す。仮想通貨を売買する際に情報の非対称性が大きいと、不正な価格操作が行われる可能性が大きい。
例えば、対象となる仮想通貨の価格を適正価格以上に吊り上げて過剰なプロモーションを行い、市場参加者を引きつけ、投資家の買いが積んだところで売り抜ける。このような手法で荒稼ぎする。仮想通貨の売買が可能になったのは、ごく最近なことなので、仮想通貨の仕組みや技術的にどんなものかを十分に理解できていない投資家が多い。
ただ皆がもうけていると聞いて投資を始めた人も少なくないだろう。このようにして容易に本当の価値が分からないまま不確かな情報にしたがって、被害者となってしまう。特に現在の仮想通貨取引所は情報の非対称性の解消に向けた規制等がほとんどないため、価格操作が行われやすい環境となっている。
仮想通貨取引における特有のリスク
仮想通貨への投資には従来の投資には見られないリスクもある。大手仮想通貨取引所のビットフライヤーが公示する「仮想通貨におけるリスク」を見ると、その点がよく分かる。
例えば、価格変動リスクとして、「仮想通貨の価値が購入時の価格を下回るおそれがあること、またはゼロになる可能性があることも重ねてご認識ください。」という文がある。従来の投資においても投資家の投資金額がゼロになるというのは起こりうることだが、株式や債券への投資とは違った意味で、仮想通貨への投資には注意が必要だ。価格変動が大きいだけでなく、仮想通貨の価値がいまだに不透明であるためだ。
また、法定通貨でもなく電子データにすぎないということも大きい。技術的なリスクとして「仮想通貨は法定通貨ではありません。インターネット上でやりとりされる電子データです。特定の者によりその価値を保証されているものではありません。
また、仮想通貨は、必ずしも裏付けとなる資産を持つものではありません」と説明されていることからも分かるように、今後、技術的欠陥などの理由で価値がなくなることもあるだろうし、もしそうなったとしても、法定通貨でもないため国の関与も限定的だと考えられる。
さらに、「仮想通貨は電子的に記録され、その移転はネットワーク上で行われるため、消失のおそれがあります。」との説明もある。従来の投資においては自分の投資した資産が突然消えたりすることはありえない。政策として投資家の権利が守られる仕組みとなっている。しかし、仮想通貨の取引において突然消失することもありうる。これまでもハッキングにより投資家が持っている仮想通貨が盗まれることは現実に起きている。
仮想通貨への投資はリスクを十分に把握した上で
仮想通貨の特徴といくつかの特有のリスクについて考えた。現時点では、単純にこれまでの投資と同様に考えるには限界があるだろう。
新しい投資方法として魅力的かもしれないが、技術的問題が発生する可能性や投資環境の整備が不十分であることなど、ハイリスク・ハイリターンだけでは説明がつかない点も少なくない。そうした点を投資家は十分に理解する必要もあるだろう。
文・潮見孝幸(金融ライター)/ZUU online
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