そんなウクライナは、世界で9番目、ヨーロッパ圏では最も腐敗しているとされてきた国であるが、それがいまや西側と同じ自由と民主主義という価値観を有する法治国家陣営の1つのように数えられているのは一体どうしたことだろうか。現在シベリアの刑務所に収監中の反プーチン運動家として有名なナワリヌイ氏でさえ、ウクライナの腐敗はロシアのそれとは比べ物にならないと言っている。
ウクライナと和平交渉を行ったロシア担当者が市中で暗殺され、内務大臣を乗せたヘリコプターが首都上空でいきなり撃墜され(これもゼレンスキー政権内部の抗争の結果だとする指摘がある)、政権に反対する野党やマスコミは全て強制的に閉鎖させられる国だ。
2014年以来、自国民であるウクライナ東部のロシア系住民に対して、ネオナチ民兵のみならず、シリアで散々残虐行為を働いていたISの構成員まで投入し、一般婦女子への凄まじい性暴力や誘拐・拷問、虐殺を行い、万単位の人々を殺害してきてもいる。
日本は米欧と足並みを揃え、ウクライナへの物資や資金の援助してきた。しかしゼレンスキー大統領は昨年、米連邦議会で、ロシアの侵攻を真珠湾攻撃に譬えて演説し、プーチン批判をするウクライナ政府公式ツイッターには、ヒトラーやムッソリーニの写真を昭和天皇の御真影と一緒に投稿した。さらには同ツイッターに投稿した各国の支援に対する感謝の動画で、日本への言及はなかった。
情報分析においては一方的で偏った情報源に頼り切ったり、「愛と憎しみ」を持ち込むことはご法度だ、と言われる。しかし戦後日本人はこれらの点で実にナイーブになってしまった。日本人は感傷的で騙されやすい。この先もずっと騙されたまま、知らず知らずのうちに誰かの利益のために貢がせられることになるだろうか。嘆かわしいことである。
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丸谷 元人(Marutani Hajime) 1974(昭和49)年、奈良県生れ。オーストラリア国立大学卒業、同大学院修士課程中退(東アジア安全保障)。オーストラリア戦争記念館の通訳翻訳者を皮切りに、パプアニューギニアでの戦跡調査や、輸送工業事業及び飲料生産工場の設立経営、さらにそれに伴う各種リスク対策(治安情報分析、要人警護等)を行った後、西アフリカの石油関連施設におけるテロ対策や対人警護/施設警備、地元マフィア・労働組合等との交渉や治安情報の収集分析等を実施。また、米海兵隊や米民間軍事会社での各種訓練のほか、ロンドンで身代金目的の誘拐対処訓練等を受ける。さらに防衛省におけるテロ等の最新動向に関する講演や、一般企業に対するリスク管理・危機管理に関するコンサルティングに加え、複数のグローバルIT企業における地域統括セキュリティ・マネージャー(極東・オセアニア地区担当)やリスク/危機管理部門長等を歴任。現在、日本戦略研究フォーラムの政策提言委員として、『週刊プレジデント』や月刊誌『VOICE』『正論』などへの執筆をも行う。 著書に『The Path of Infinite Sorrow: The Japanese on the Kokoda Track』(豪Allen & Unwin社)、『ココダ 遥かなる戦いの道』『日本の南洋戦略』『日本軍は本当に「残虐」だったのか』『学校が教えてくれない戦争の真実』(ハート出版)、『なぜ「イスラム国」は日本人を殺したのか』(PHP研究所)等がある。
編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2023年3月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。