理解の助けにも妨げにもなる「文脈」

「文脈」と言えば狭い意味では文章の筋道や提示条件などを指すが、広い意味では文章中にはなくても「情報発信者と受信者の間に共有されている情報」も含む。

例えば「総理がウクライナ訪問を検討」という情報があれば、多くの人に「岸田総理がゼレンスキー大統領と面談するためにキーウ訪問を検討している」とわかる。これも「文脈」(=共有された暗黙の知識)と考えていい。

しかし、個人間には往々にして、この「共有されたはずの情報」に差異がある。コミュニケーションギャップが起こる一つの原因は、この「お互いの認識は共通だ」という幻(誤認)である。

「文脈」の存在は深い理解の助けになる一方で、本当は著しい差異があるにもかかわらず「相互に共通の認識がある」と誤認してしまうと、深い理解の妨げにもなる。

対韓外交案件でも、話者(松川議員)と一部視聴者の間には、著しいギャップが存在していたことが推定される。(推定根拠は次の稿で提示。)特に日韓関係修復努力の現状については、少なくとも日本国民側の認識率は決して高くないと思われる。

具体的には、

昨年9月の日韓防衛次官級協議で「レーダー照射問題」の解決に日韓ともに努力している事実 今年2月の「観世音菩薩坐像の所有権は日本にある」という(韓国)高裁判断が示す通り、韓国世論の風向きや司法界の正常化が進んでいる事実 同2月、韓国国防白書で前回「隣国」との表現にとどめていた日本を「価値を共有し、未来協力関係を構築していくべき近い隣国だ」と規定し、「北朝鮮の政権と軍はわれわれの敵」との記述を復活させた事実

これらは、実際にはどこまで知られているか疑問である。

6年ぶりに日韓防衛次官級協議 レーダー照射問題で意見交わす 盗まれた仏像訴訟「原告が仏像を作った当時の寺と同じかどうか証明できない」…韓国高裁 対馬の仏像、日本側に所有権 返還は韓国政府が要検討と高裁 日本は協力すべき近い隣国 「北朝鮮は敵」復活―韓国国防白書

上記の事実が示す通り、日韓双方で法の支配という価値観の共有や安全保障上の協力関係を深化させるための努力はすでに開始され、粛々と進行している。しかし「嫌韓」感情に囚われた一部国民にとって、上記3つの情報は不都合(不快)な事実であり、低調な国内報道も背景にあって知らない人も多いと思われる。

松川議員は政策推進者側の重要メンバーである。上記のような公表された事実に加え、公表されていない「深い情報」を保有しているのが自然であるが、一般国民の中にはある理由からそれがわからない人がいる。このギャップの存在は、一体何をもたらすのであろうか。

今回はここまで、「わかるとはどういうことか」について、実際のケースに沿って筆者と読者の間で理解を揃えてきた。これで相互理解のために必要な最低限度の共通「文脈」を持つことができた。

次回は「情報受領者としての国民側の事情」と「情報発信者としての松川るい議員の分析」を進めて、両者の間にあるギャップの実態について調べて行く。

(次回につづく)