ちなみに、国連安保理常任理事国5カ国にドイツを加えた6カ国とイランの間で2015年、核合意が締結されたが、同合意ではイランはウラン濃縮は3・67%となっていた。トランプ前米政権が2018年、核合意から離脱した後、イランは濃縮度を段階的に上げ、60%まで濃縮ウランを生産してきたことは明らかになっている。84%の濃縮ウランの生産が事実とすれば、核兵器用濃縮ウランを目指していることになる。なお、2021年4月に開始されたイランとの核合意再建交渉は、数カ月にわたって停滞している。

イランの核保有はイスラエルだけではなく、サウジアラビア、エジプトなどにも大きな影響を与えることが予想される。イスラエルはイランの核兵器製造を軍事攻撃で阻止することも考えられる。一方、スンニ派の盟主サウジにとってもシーア派のイランの核兵器保有は絶対に容認できないから、独自の核兵器製造に動きだすかもしれない。いずれにしても、イランの核兵器製造は中東・アラブに大きな波紋を及ぼすことは必至だ。

一方、北朝鮮は今月18日、米全土を射程距離に入れたICBM(大陸間弾道ミサイル)を発し、米国側に圧力をかけている。7回目の核実験も視野に入れているといわれる。

第1次冷戦の終了直後、ジョージ・W・ブッシュ米大統領時代の国務長官だったコリン・パウエル氏は、「使用できない武器をいくら保有していても意味がない」と主張し、「核兵器保有」無意味論を展開したが、米国と並んで世界最大の核保有国ロシアがウクライナ戦争を契機に核兵器に手を伸ばす気配を見せるなど、大量破壊兵器使用へのブレーキや自制心が緩んできている。危険な兆候だ。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年2月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。