新総裁の仕事は債務管理
植田氏は『ゼロ金利との闘い』の結びでこう書いた。
日銀は1998年施行の新日銀法で独立性を高めたが、独立性が高まる前の旧日銀法には日銀が債務超過に陥った場合に政府が自動的にこれを補填するという条項が含まれていた。しかし、この条項は新日銀法では消えている。[…]民主主義の下では、独立性の高い中央銀行がとれる、あるいはとってよい財務リスクには限りがあると考えるべきだろう。
日銀の財務リスクとは、その保有資産が大きく減価し、政府が救済する状態になることだ。もし日銀がYCCから撤退して、長期金利が1%超に上がると債務超過になり、債務の削減を迫られるだろう。
このうち国債は、統合政府でみると政府債務と中央銀行の資産が相殺できるので、理論的には解決法がある。たとえば国債を徐々に永久債で借り替えれば、売却しないで実質的に政府債務を減額できる。これは日銀当座預金の金利がゼロのうちにやったほうがいい。
だが株式は、日銀が保有する時価総額約50兆円の一部を売却する方針を示しただけで、株価が暴落するだろう。これを基金に移管し、SWF(政府系ファンド)を設立して海外の資源を買う活用法もある。
いずれにしても植田総裁の最大の任務は、緩和か引き締めかといったフローの微調整ではなく、ゼロ金利が終わった時代の債務管理である。今すぐ何かが起こる状況ではないが、長期的な時間軸を示して期待に働きかける必要がある。