植田和男氏(元東大教授・日銀審議委員)が次の日銀総裁に内定したとの報道があったので、2009年12月2日の池田信夫ブログの記事を再掲します。

日銀の政策をめぐるメディアの反応をみていると、まるで10年ぐらい前に戻ったような既視感をおぼえる。当時も「日銀の量的緩和は物足りない」「もっと大胆な姿勢を示せ」といった論評一色だった。また同じような勇ましいコメントをしている自称エコノミスト諸氏には、せめて本書ぐらい読んでほしいものだ。

本書が出版されたのは2005年だが、デフレとゼロ金利をめぐる理論的・実証的な研究をほぼ網羅的にサーベイしている。著者は日銀の審議委員だったので、「日銀理論」のバイアスはあるだろうが、彼もいうように日銀はそれなりに努力してリフレ的な政策を実施したのである。ただ、この種の政策には次のような問題点がある:

ゼロ金利になると、それ以上マネタリーベースを増やしてもマネーストックは増えず、インフレ率に影響を及ぼさない 日銀がインフレ予想に影響を与えるには、一時的なマネタリーベースの増加ではなく、長期にわたって持続的に増加させるコミットメントが必要である しかしこうした政策の結果、インフレが起こったら日銀はマネタリーベースの増加を止めるので、永遠にインフレが続くことはありえない