「人の死体の代わりに焼いた」という伝承が、その標準和名の由来になった魚がいます。
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冬に美味しい魚は数あれど……
我が国では「冬になると魚介類が美味しくなる」というイメージを持っている人が多いと思います。
実際、生き物は寒くなる前に皮下脂肪を溜め込み、寒さに備える行動を取るものが少なくありません。日本では「脂乗りが良い=美味しい」と考える傾向が強いため、冬に脂乗りが良くなると、より美味しく感じられるようになるものが多いのです。また、フグやアンコウのように「鍋に合う」と考えられているものも、鍋料理が美味しくなるシーズンである冬に美味しくなるイメージがあります。
そして、そのような魚たちの中でも、他のどんなものより強く「旬は冬」と主張するものがいます。
魚編に冬と書いてコノシロ
その魚とは「鮗」。魚編に冬と書いて「コノシロ」と読みます。イワシなどと同じニシン科の魚で、内湾性・沿岸性が強く、東京湾など大都会の海でもおなじみの存在です。コノシロもまた上記の魚たち同様、冬に脂乗りが良くなり美味しくなるため、このような字が当てられたと考えられています。
コノシロは大きいと30cm程度まで成長しますが、食材としてのコノシロは、他の多くの魚とは異なる特徴があります。それは「小さい個体のほうが珍重される」ということ。
その理由は、成長すると全身を覆う小骨が硬くなってしまうから。稚魚である新子は超高級魚、10cm程度までの「コハダ」も江戸前寿司の名ネタとして知られますが、それ以上になると一気に価値が落ちてしまいます。いうなれば「逆出世魚」とでもすべきものかもしれません。
名前の由来
そんなコノシロ、漢字の由来はわかるのですが、そもそもなぜ「コノシロ」という名前になったのでしょうか。これには諸説あるのですが、有名なものとして以下のような伝承があります。
昔々、とある国の偉いお役人が、別の国に住む長者の一人娘に惚れ、長者に嫁に出すよう命じました。しかしその娘には惚れたものがおり、やがて子を授かりました。これを知り、娘を嫁に出したくない長者は、役人に「娘は死んでしまった、今から娘を荼毘に付します」と言って、棺桶にコノシロを詰めて焼きました。
古くよりコノシロは「焼いたときの匂いが人を焼く匂いに似る」と言われていたようで、コノシロを焼く匂いを嗅いだ役人は納得して諦めたそうです。このような話から、「子の代わり」=「子の代」となりコノシロと呼ばれるようになったのだと言われています。
実際のところ、コノシロは鮮度落ちが早い上に、体表のヌメリが臭くなりやすいという特徴があります。鮮度が落ちてしまったコノシロを焼くと、なんとも言えない不快な香りがあり、これがもしかすると人を焼く匂いを連想させたのかもしれません。
ただし、鮮度の良い大型の個体のヌメリをよく落とし、骨切りして焼いたものは非常に美味です。大きく成長すると不当に低い評価をされがちな魚ですが、風評を気にせず食べてみてほしいと思います。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>
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