気球がローテク技術で安価で大量製造ができる、といったメリットを指摘し、「気球が近未来、軍事目的で利用される」と予想する軍事専門家の意見が既にメディアで報じられているほどだ。

米上空に姿を見せた中国製「気球」の写真を見ていると、ドローンがメディアに初めて登場した時を思い出した。ドローンが話題となった当初、人間が訪れることができない地域や場所で写真撮影し、調査できる手段としてドローン技術が紹介された。しかし、その数年後、ドローンは急速に軍事的目的で使用されるようになった。特に、ロシア軍がウクライナに侵攻して以来、ロシア側はドローンを利用し、自爆ドローンをウクライナに投入し、多くの民間人や施設が破壊されている。

ロシア軍はウクライナ軍の攻勢に直面する一方、弾薬や砲弾不足で攻撃にも支障が出てくるなど苦戦。そこでイランから無人機を獲得し、ウクライナへ自爆無人機を飛ばして守勢をカバーしている。「ガザ」と命名されたイラン製大型無人機は監視用、戦闘用、偵察任務用と多様な目的に適し、連続飛行時間35時間、飛行距離2000km、13個の爆弾と500kg相当の偵察通信機材を運搬できるという。

無人機は人的被害のないうえ、軍事的気球と同様、低価格で大量生産ができる利点がある。地域紛争などで今後、軍事目的でドローンが戦場を飛び回ることが十分に予想できるわけだ。

気球が初めて浮かび上がって飛んだ時、そして無人機が地上のコントロールで自由に飛行するシーンを見て、人々は喜び、科学の発展を誇らしく感じたのを懐かしく思い出す。しかし、その時間はあまり長く続かなかった。科学技術の発展は人を幸せにする一方、不幸にもするという現実を改めて感じざるを得ないのだ。

明確な点は、「気球」も「無人機」も科学技術の成果であって、問題視することではないことだ。問題は「気球」を製造し「無人機」を利用する人間にあるからだ。全ての存在はデュアル・ユースだ。いい目的で人類に貢献することもあり、逆に人を不幸にすることもできる。どちらを選ぶかは人間だ。人工知能(AI)の世界もそうだ。ディープラーニングするAIが近未来、よきAIと人間世界を破壊するAIとに分かれてくるだろう。

人間は自身の中にジキル博士とハイド氏的な2面の世界を有している。矛盾を有する人間が家庭、社会、国家、世界を形成する。どうしたらその矛盾する世界を克服できるか、等々を考え、人間の生きるべき道を提示するのが本来、宗教だった。「科学」と「宗教」は対立するものではなく、相互補完する世界のはずだ。その宗教が混乱し本来の使命を果たせないなら、残念ながら人間の近未来は明るくはない。科学技術の発展で(ハイド氏の)潜在的破壊能力は益々、高まっているからだ。

いずれにしても、良き人間になる……このシンプルなテーゼは有史以来、人間が願いながら、今なお解決できない問題として留まっている(「『戒め』はいつ、誰から始まったか」2022年5月23日参考)。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年2月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。