③売上高販管費率
過去の論考で提示したように、海外の工場は日本を見限り、中国で3ヶ月、バングラデッシュなどでは長いリードタイムの場合は半年から一年といわれる始末だ。工場に、「なぜ、そんなにリードタイムが長くなったのか」と聞けば、「日本のオーダーは、安い、少ない、品質過剰」で、工場としてお付き合いする旨みがないからだという。つまり、日本で一世風靡したクイックレスポンス(QR)を加速した結果、逆にQRができなくなったというわけだ。
私が提唱するように、工場との距離を短くし素材を備蓄する「縫製リードタイム」へとKPIを変えなければ、ますます余剰在庫が増えてゆくことになる。このように、原価を下げることはもはや限界に来ているわけだ。
そうなると、収益を高めるには消化率を上げることが重要になる。だが実は、消化率を上げるというのは、上記の2と同じ意味で、仕入れた商品を企画時点の上代で、仕入れた数だけ売り切れば、消化率は100%になる。しかし、企業が取り得る変数には限界がある。例えば値下げを抑制をすれば、競合が値下げしたときに、競合に売上を奪われてしまう。特に、最近のユニクロは、ベーシック衣料の域を超えてファッションアパレルと呼んでもよいほどファッション性が高くなっている。
そこで、原価の上の販管費に目をやると、ファーストリテイリングの22年8月期決算では、販管費率は脅威の30%台(39%)で、日本のSPAの平均値である50%を遙かに下回っている。同社は、これでも広告宣伝費と出店で販管費率が悪化してしまったといっているほどだ。また、日本で勝ち組と呼ばれる非上場企業があるが、私がプレデューデリジェンスした結果、販管費率が40%であった。最近は、スタートアップのネットアパレルから依頼を受けることも多くなったのだが、彼らも40%台である。今、アパレルがすべきことは、販管費を大きく下げ、40%台にすることだろう。
さて、本日は、企業の内情がわからない場合においても、アパレルビジネスの特殊性を鑑み、類推や仮説を用いて、「おそらくこのようになっているのではないか」「ここが弱点ではないか」というように分析する手法を書いた。事業分析者のみならず、事業主にとってもお役に立てれば幸いだ。
プロフィール
河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで) デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
提供元・DCSオンライン
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