そうこうするうちに、IMFの対日勧告(26日)で、ずばり政策転換のポイントを突かれたのです。令和臨調(30日)はもっと厳しい評価で、「金融政策では構造的な改革はをできないし、10年もの長期にわたり、緩和を続けるべきものでなない」と、核心的な問題に迫っています。
黒田氏は、「次の新総裁が政策修正をするのならやむを得ない」という心境でしょう。2月に岸田首相は正副総裁の人事案を国会に示すといっています。新体制が動きだすのは3月です。黒田氏は4月の任期切れを繰り上げて3月に退任するでしょう。
繰り上げ退任でも、昨年11月から今年3月まで4か月も、金融政策が空白となることになります。経済、マネー市場は人事異動のタイミングに合わせて動いてくれるものではありません。
物価上昇は12月が4%、1月の都区部が4.3%の上昇で、世界の動きを追うようにこれからもっと上がる。「粘着インフレ」(日経)といって、金融引き締めに転換しても、一度上がったらなかなか下がらないものも多い。
「さらに過去19のパンデミックを調査してみたら、その後遺症は20年ほど続く」という分析を渡辺務東大教授が紹介しています。「コロナによる消費者、勤労者、企業行動の変容を反映し、異なる価格体系に移行していく」(渡辺氏)とするならば、物価は高止まりするかもしれない。
「黒田包囲網」はまだあります。白川・前日銀総裁がインタビュー(朝日新聞、31日)で、「金融緩和が長期化すると、それを前提に政府、企業、家計の行動が変わる。新陳代謝の遅れによる生産性上昇率の低下、1971年水準にまで戻った円の実質為替レートの下落などは象徴的だ」と、黒田氏の金融政策を批判しています。
黒田氏は「大規模緩和は維持する」を繰り返すだけで、どういう手法で金融緩和政策を変えていくのかを明らかにしませんでした。次の総裁が誰になるにしても、出口論についても国会で質疑を受ける。新総裁候補の発言に市場は踊らされ動揺する。
黒田氏は出口論を明かさないまま、日銀の出口から去る。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2023年1月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。