宇宙用の製品開発に乗り出す企業が増えてきているなか、開発に携わる担当者の多くが宇宙でのリアルな暮らしを知らないことが壁となっています。そのギャップを埋めるのに一役買おうとしているのが、組立式ダンボール製テントです。

1月11日、容器メーカー・東洋製罐グループと極地建築家として知られる村上祐資さんが代表を務めるNPO法人フィールドアシスタントは、宇宙を想定した生活環境を検証できる「DAN DAN DOME EXP. STATION」を共同で開発したことを発表しました。

組立式ダンボール製の基地で、宇宙での生活を体験。東洋製罐と極地建築家・村上祐資さんらが開発【宇宙ビジネスニュース】
(画像=都内で開催された発表会では、DAN DAN DOME EXP. STATIONの一部が公開されました Credit : 東洋製罐グループ/フィールドアシスタント,『宙畑』より 引用)
組立式ダンボール製の基地で、宇宙での生活を体験。東洋製罐と極地建築家・村上祐資さんらが開発【宇宙ビジネスニュース】
(画像=ドーム内の様子 Credit : 東洋製罐グループ/フィールドアシスタント,『宙畑』より 引用)

宇宙のリアリティを体験

東洋製罐グループとフィールドアシスタントは、被災地や観光地など様々なシーンでの活用を想定した組立式ダンボール製テント「DAN DAN DOME」を開発し、2021年秋に一般販売を開始していました。

組立式ダンボール製の基地で、宇宙での生活を体験。東洋製罐と極地建築家・村上祐資さんらが開発【宇宙ビジネスニュース】
(画像=DAN DAN DOME Credit : 東洋製罐グループ/フィールドアシスタント,『宙畑』より 引用)

東洋製罐グループホールディングス イノベーション推進室 三木逸平さんによると、国内においてダンボールのリサイクル率は95%以上です。限られた資源に取って代わるダンボールの新たな可能性を目指す“ダンボールアーキテクチャー”として、DAN DAN DOMEの開発を始めたといいます。

同製品は企業研修やスポーツチームのアクティビティなどで活用され、2022年度グッドデザイン賞を受賞しました。

今回発表されたDAN DAN DOME EXP. STATIONは、DAN DAN DOMEシリーズのパーツを組み合わせた合計9棟のドームで構成されています。

組立式ダンボール製の基地で、宇宙での生活を体験。東洋製罐と極地建築家・村上祐資さんらが開発【宇宙ビジネスニュース】
(画像=DAN DAN DOME EXP. STATION のイメージ Credit : 東洋製罐グループ/フィールドアシスタント,『宙畑』より 引用)
組立式ダンボール製の基地で、宇宙での生活を体験。東洋製罐と極地建築家・村上祐資さんらが開発【宇宙ビジネスニュース】
(画像=ユニットの説明 Credit : 東洋製罐グループ/フィールドアシスタント,『宙畑』より 引用)

①アートモデル
屋外使用に対応した耐水モデルである「スタンダード」をベースに、 印刷やペイントにも対応したホワイトモデルです。
②インナールーフ
アートモデルにオプションとして加えられた、内外とも突起(リブ) がほぼなくなる内装壁ドームユニット。プロジェクター投影等を可能にしています。
③エントランスパーツ
『DAN DAN DOME』の開口部に上下にぴったりとはめ込むことで壁面に、下半分なら窓に、用途を変更することを可能にするオプションの扉ユニットです。
④スペースユニット
2棟以上の『DAN DAN DOME』を連結して、複数の部屋がある空間として使用することが可能になる、オプションの通路ユニットです。

フィールドアシスタントの村上さんは、DAN DAN DOME EXP. STATIONを開発した理由をこう語りました。

組立式ダンボール製の基地で、宇宙での生活を体験。東洋製罐と極地建築家・村上祐資さんらが開発【宇宙ビジネスニュース】
(画像=フィールドアシスタント 村上祐資さん,『宙畑』より 引用)

「(宇宙分野に精通していない人にも宇宙用製品の開発等に加わっていただくには)一緒に(宇宙の)リアリティを体験していただくことが重要です。そのリアリティとは一体何なのか、向き合うべきものが何なのかを考えていたためには、1分の1スケールで実際の生活を模擬した環境を肌で感じていただくということが必要だと考えて作りました」

DAN DAN DOME EXP. STATIONの特徴は、宇宙と地上管制の現場を想定した検証を可能なことです。そのため、宇宙飛行士だけではなく地上管制官やプロジェクトに関わるあらゆる方にも宇宙生活を想定した体験を提供できます。

組立式ダンボール製の基地で、宇宙での生活を体験。東洋製罐と極地建築家・村上祐資さんらが開発【宇宙ビジネスニュース】
(画像=モニタリング画面 Credit : 東洋製罐グループ/フィールドアシスタント,『宙畑』より 引用)

開発にあたり、フィールドアシスタントの村上さんは、宇宙基地で生活をする人だけではなく、地上管制官として外部から様子をモニタリングしながらサポートする役割の人たちも含めて上手くチームを組成するには必要なことに着目して設計したといいます。

「大きな空間の中で笑いや怒りなど、複数のことが同時に起きると、外から見ている人には(把握しづらいため)非常に負荷がかかってしまいます。一部屋一行為となるように設計することで、外にいる人たちも見やすくなります」

「通路ユニットは、少しかがんで入るようにしています。例えば鳥居をくぐるように、一度通路でかがんでくぐることで、今いる空間と向こうの空間の違いが意識されます。そうすると、こちらのユニットでは笑う、こちらでは怒るというふうに編集部注:行為ごとにユニットを移動して分かれていきます」

スターダストプログラムでの検証にも活用

DAN DAN DOME EXP. STATIONは、スターダストプログラムの一環で行われている農林水産省の「月面等における長期滞在を支える高度資源循環型食料供給システムの開発」戦略プロジェクトのQOLマネジメントシステムの検証にも活用されているそうです。

宙畑メモ:宇宙開発利用加速化戦略プログラム(通称スターダストプログラム)
宇宙政策全体を俯瞰して戦略的に取り組むべきプロジェクトを特定し、関係省庁の連携や産学の多様なプレーヤーの参画の下で技術開発に取り組んでいく枠組みとして創設されました。

「月面等における長期滞在を支える高度資源循環型食料供給システムの開発」戦略プロジェクトを推進する一般社団法人SPACE FOODSPHEREの代表理事を務める小正瑞季さんは、地上で宇宙用製品を開発する際の課題を説明しました。

「(宇宙で使用する)ソリューションを考えるうえでの課題は、宇宙に住んでいないため想像の世界で検討を進めてしまうことです。リアリティからどんどん離れた議論がされがちだと思っています。私たちが実際に宇宙でも、そして将来的には地球上でも活用できる技術を作るためには、リアリティにぐぐっと寄せていくことが非常に重要だと思っています」

誰でも簡単に組み立てられるDAN DAN DOME EXP. STATIONの登場により、宇宙での生活を体験するハードルが下がり、宇宙用製品の開発に参入する企業や団体が増えることが期待されます。

提供元・宙畑

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