アナログな情報収集で「声のする方に、進化する」

2018年に新ブランドの店舗「ワークマンプラス」、2020年には「#ワークマン女子」など新たなショップブランドを展開し、カジュアル衣料としても広く認知されているワークマン。YouTubeなどでも、新作アイテムがさまざまな動画で紹介されている。

カジュアル衣料の市場に進出したのは「東北の港町にある店舗から『冬でも温かい雨ガッパが作れないか』との要望があったのがきっかけ」と柏田氏は振り返る。

その要望を受け、漁港で働く作業員のために綿入りの雨ガッパを開発したところ大ヒットに。冬の防水・防寒ウェアとして全国に展開していった。

それからしばらくして、別の店舗から「明るい色の雨ガッパを作ってほしい」と新たな要望があった。それまでは黒・紺の地味なカラー展開だったので、新たにライムイエローの雨ガッパを販売したところ、これまたヒットとなる。

「どうしてこの明るい色が売れるんだろう?」と柏田氏が店舗を回って店長やスタッフから情報を集めていると、冬にバイクに乗る人が買い求めていることがわかった。

そこで、バイカーを新たなターゲットに、雨ガッパを日常でも着られるレインウエアとしてリニューアル。透湿防水性に優れた素材を採用した防寒レインウエア「イージス」のシリーズ名で販売したところ、バイカーだけでなく多くの人が買い求める超大ヒットとなった。

このエピソードからもうかがえるように、ワークマンでは社員一人ひとりが現場の店舗スタッフや取引先などから常に情報を集め、商品開発に反映している。今日ではDX(デジタル・トランスフォーメーション)のトレンドから、店頭で顧客の行動データをいかに収集、活用するか、という点に注目が集まっているが、この一連のエピソードから、店舗を回ってのアナログな情報収集力が、ワークマンの「高品質×低価格」の秘訣の一つであることがうかがえる。その姿勢は、同社が掲げる企業理念「声のする方に、進化する」の言葉にも表現されている。

あくまで「作業服」であり「消耗品」

11期連続最高益更新! ワークマンが「高品質×低価格」の究極のトレードオフを両立できる理由
(画像=製品開発部 部長の柏田大輔氏、『DCSオンライン』より引用)

近年では新型コロナウイルス禍によるライフスタイルの変化もあり、大手アパレル、紳士服チェーンなども含めてより軽さや動きやすさを求めた商品開発に大きくシフトしているトレンドがある。その点ではワークマンにとっての競争環境も激化しているように映るが、柏田氏は意外にも「あまり競争している意識はない」と語る。

「当社の製品の軸はあくまで作業服。作業の現場で必要とされるものであり、趣味嗜好品ではなく『消耗品』を扱っている」(柏田氏)

作業現場でのストレスを軽減するためにより軽く、動きやすく、快適な作業服を提供する。汚れたり破れたりと消耗することを想定し、求めやすい価格で提供する。流行を追い過ぎず、すべてのアイテムは最低でも5年間販売し続ける――ワークマンの一連の経営方針は、すべて「作業服」である、というところに帰結するのだ。そう考えると、柏田氏の「他社と競争している意識はない」との発言は決して不遜には聞こえない。

「作業する人のために快適な作業服を提供する、という一点で、ニッチな市場を築き上げてきた。だから、アパレルの他社とぶつかることがない」(柏田氏)

作業服市場ではトップシェアを築き上げてきたが、それに甘んじることなく、消費者の声に耳を澄ませて「高品質×低価格」のトレードオフに挑み続ける。そこに、ワークマンの強みがあるのだろう。

提供元・DCSオンライン

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