2015年以降、国連が全世界で実施しているMy World 2030 というアンケート調査がある。「あなたにとって大事なSDG目標を5つあげてほしい」という質問に対する国ごとの回答傾向を見ると先進国と途上国では明らかな違いがある。グレタの出身国スウェーデンでは17のSDGのうち、気候行動の優先順位が圧倒的に1位になっているが、世界最大の排出国である中国では15位であり、インドネシアでは9位でしかない。

出所:United Nations My World 2030 より筆者作成

各国の回答傾向を見ると、一人当たりGDPが高ければ高いほどSDG13(気候行動)に対して高い優先順位が付され、一人当たりGDPが低いほど優先順位が低い。当たり前の話であるが、貧しい国にとっては温暖化防止以外にもっと大事なことがあるのだ。

世界で最も豊かな国に生まれ育ったグレタが「経済成長というおとぎ話」と言い放つ姿には、それこそ「よくそんなことが言えますね」と言いたくなった。プーチン大統領はグレタ演説を評して「世界の複雑さや多様性がわかっていない」と言った。今や「世紀の悪役」になっているプーチン大統領であるが、この点については彼の見方に賛同する。

エネルギー政策の目的は3つのE、すなわちエネルギー安全保障(Energy Security)、環境保全(Environmental Protection)、経済効率性(Economic Efficiency)と言われるが、その優先順位は状況に応じて変化する。今回のグレタ拘束が象徴していることは、エネルギーの安価かつ安定的な供給が危うくなれば、温暖化防止よりもエネルギー安定供給が優先されるという当たり前の事実である。

エネルギー危機、ウクライナ戦争によって電力料金上昇に直面したドイツでは「電力料金の引き下げに役立つならば」と原発フェーズアウトの延期や石炭の継続利用に対する支持が高まっている。

2022年3月にドイツのエネルギー消費者ポータル会社Vervoxが行った調査によれば、54%の回答者がエネルギー輸入依存低下のためには原発が必要であり、42%の回答者が石炭フェーズアウトの延期を支持した(石炭フェーズアウトへの支持は2021年6月時点ではわずか12%だった)。

だからこそ本来、反原発、反石炭火力の緑の党も連立政権の一翼を担う以上、「再エネと省エネだけでエネルギー危機を乗り切れる」という活動家的な議論を封印せねばならなかった。

経産省が2022年6月に発表した「クリーンエネルギー戦略中間整理」の中で「本年2月に発生したロシアによるウクライナ侵略や電力需給逼迫の事態を受け、改めてエネルギーの安 定供給確保があらゆる経済・社会活動の土台であり、エネルギー安全保障なしには脱炭素の取組もなしえないことを再確認する必要がある」と書かれている。これをわかりやすく表現すれば「衣食足りて礼節を知る」ということである。

エネルギー情勢がどのように変化しようとも温暖化防止と化石燃料排斥だけを声高に叫ぶグレタをはじめとする環境活動家にはそうした当たり前のことが見えていない。