教会の改革を目指すフランシスコ教皇は昨年6月14日、インタビューの中で、「ドイツには立派な福音教会(プロテスタント派教会=新教)が存在する。第2の福音教会はドイツでは要らないだろう」と述べ、独教会司教会議の改革案に異議を唱えている(「教皇『教会改革も行き過ぎはダメ』」2022年7月23日参考)。

独司教会議の司教たちは昨年11月、バチカンを5日間、「アドリミナ」訪問し、教皇らと会談したが、改革案では理解が深まらずに「成果なく終わった」(ベッツィング司教)という。ローマ教皇は既に何度か独教会の「シノドスの道」を批判している。それに対し、ベッツィング司教は「われわれはカトリックであり、今後もそうあり続けるが、別の方法でカトリックであることを望んでいる」と述べている。

ちなみに、ドイツのキリスト教信者数はローマ・カトリック教会(旧教)とプロテスタント教会(新教)ではほぼ均衡している。マルティン・ルター(1483~1546年)の宗教改革の発祥国ドイツでは歴史的に教会改革への機運が漂っている。そのドイツのカトリック教会では聖職者の未成年者への性的虐待事件が多発し、その対応で教会指導部が混乱している現状に対し、信者からだけではなく、教会指導部内からも刷新を求める声が高まってきているわけだ。

独司教会議が提示した主要な改革案は、①ローマ・カトリック教会はバチカン教皇庁、そして最高指導者ローマ教皇を中心とした「中央集権制」から脱皮し、各国の教会の意向を重視し、その平信徒の意向を最大限に尊重する。②聖職者の性犯罪を防止する一方、LGBTQ(性的少数派)を擁護し、同性愛者を受け入れる。③女性信者を教会運営の指導部に参画させる。女性たちにも聖職の道を開く。④聖職者の独身制の見直し。既婚者の聖職者の道を開く、等々だ。

フランシスコ教皇でなくても、カトリック教会の“福音教会化”と揶揄されてもおかしくはない内容だ。バチカンの中から「それでは何のためにカトリック教会か」という疑問の声が出てくるのは頷ける。「シノドスの道」は教会聖職者の性犯罪の多発を契機に始まったもので、フランシスコ教皇が2019年に開始し、世界各教会で積極的に協議されてきた。

独教会の改革案がバチカンや他の教会からの批判に直面して暗礁に乗るか、それとも支持を集めるか、その成り行きはドイツ教会の将来だけではなく、世界のカトリック教会にも大きな影響を及ぼすことは必至だ。

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編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年1月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。