勉強に仕事に遊びに、ここが頑張りどころというときエナジードリンクを飲むのは、現代では見慣れた光景です。

しかし、エナジードリンクは元気の前借りなどと揶揄されるように、未来の何かを犠牲に今の気力をチャージしています。

飲むのはやめられないけど、このデメリットはきちんと把握しておきたいというのは誰もが考えることでしょう。

科学雑誌『Depression and Anxiety』に2020年8月に掲載された研究では、エナジードリンクの利用に関する縦断的研究の結果、不安、うつ病、ストレスの増加などの健康問題と関連していると報告されています。

また科学雑誌『Food and Chemical Toxicology』3月号に掲載された新しい研究は、エナジードリンクが心臓機能に深刻な影響を与えるという報告を行っています。

体に良くなさそうなのは覚悟の上で利用しているエナジードリンクですが、ほんとうにそこまで体に悪いのでしょうか?

目次
エナジードリンクのデメリット 精神的な健康問題
エナジードリンクのデメリット2 心筋細胞への影響

エナジードリンクのデメリット 精神的な健康問題

エナジードリンクの消費はうつ病、ストレス、心臓疾患と関連している 強い効果は「元気の前借り」かも
(画像=エナジードリンクの利用は、不安、ストレスの増加に関連している可能性がある。 / Credit:canva、『ナゾロジー』より引用)

エナジードリンクは、カフェイン、ガラナ、砂糖、高麗人参、アステルパームなどの成分の混合物で、気分の向上や覚醒、生産性の改善などの効果を期待して利用されています。

しかし、あまり有益でない副次効果が長期的に現れる恐れがあるという指摘もあり、不安、うつ病、ストレスの増加など精神的な健康に関する影響調査もおこなわれていました。

ただ、こうした研究のほとんどは横断的研究でした。

横断的研究というのは、幅広い年齢層や異なる集団に対してその影響を調べるものをいい、比較的短期間でさまざまなデータを得られる一方、同一の対象者を追跡した調査は行わないため、長期的な影響については明らかにできません。

そこで、西オーストラリア大学の研究チームは20歳の成人について、2年間に渡るエナジードリンク利用とメンタルヘルスに関する縦断的研究を行ったのです。

縦断的研究というのは、同じ対象者を一定期間追跡して調査することで、長期的な影響を見る研究をいいます。

縦断的研究の方が、横断的研究より手間や期間、費用がかかるため大変な研究です。

研究では、親の精神状態とアルコールおよびタバコの消費量、違法薬物の使用歴、食事パターン、収入、BMI(肥満度)、運動の頻度などの要因を考慮した上で、エナジードリンクの利用者と非利用者に分けて、気分に関するアンケート調査がメインに実施されました。

そして2年間の調査の結果、チームはエナジードリンクの消費量の変化とストレスコア(不安やうつ病)の増加に有意な関連性があったと報告しています。

ただ、食後のコーヒーなどのように習慣的に飲用されるものと違い、エナジードリンクの使用はかなりランダムです。

また、エナジードリンクを多用する人は、そもそもストレスや疲労の多い状況に追い込まれている可能性が高いため、この関連性は単純にエナジードリンクの消費量が原因と完全に指摘できるかは疑問が残ります。

これについては、研究チームも認めていますが、エナジードリンクの成分にはうつ病、ストレス等の症状を悪化させる可能性がある点は注意するべきだと語っています。

特にメンタルヘルスに関する自己報告は、過小評価または過大評価される傾向が強いため、将来的には測定値を増やして、さらなる研究を進める必要があるようです。

エナジードリンクのデメリット2 心筋細胞への影響

エナジードリンクの消費はうつ病、ストレス、心臓疾患と関連している 強い効果は「元気の前借り」かも
(画像=エナジードリンクの利用は、心筋細胞に悪影響を与えていると新しい研究は指摘する。 / Credit:canva、『ナゾロジー』より引用)

一方、テキサスA&M大学の研究チームは、エナジードリンクの身体に及ぼす影響について調査を行っています。

そして彼らが発見したのは、一部のエナジードリンクが心臓の筋肉細胞に悪影響を与えるというものでした。

エナジードリンクの摂取は、心臓の不適切な鼓動、心筋症(心臓が血液を送り出すことを困難にする症状)、高血圧などに関連していると彼らはいいます。

研究チームを率いるイヴァン・ルシン教授は「エナジードリンクはたしかに人間の健康へのさまざまな悪影響と関連しており、それらの多くは心臓です」と述べています。

エナジードリンクの世界的な消費量は増加傾向にあり、すべての年齢層が店頭で入手できるため、その健康への悪影響は懸念事項です。

研究チームは広く入手可能な17の市販ブランドのエナジードリンクを使って、調査を行いました。

研究では、iPS細胞由来の心筋細胞を使って、各ドリンクによる処理を行って、電気生理学的な影響(拍動速度、イオンチャンネル機能、細胞毒性)を調べ、数学的モデルによって悪影響のある成分の判定を行いました。

その結果、エナジードリンクに含まれるテオフィリン、アデニン、アゼレートが心筋細胞に悪影響を与える可能性のある成分として特定されたのです。

「エナジードリンクの心臓に悪影響を与える可能性のある成分についてはほとんど知られていません」とルシン教授は説明します。

今回の結果についても、特定の年齢層と感受性の高い集団をきちんと調べていき、注意書きをつけるなど検討していく必要があると研究者は話しています。

エナジードリンクの消費はうつ病、ストレス、心臓疾患と関連している 強い効果は「元気の前借り」かも
(画像=エナジードリンクは人類の救世主なのか、悪魔なのか? / Credit:canva、『ナゾロジー』より引用)

これらの研究報告が示すように、実のところエナジードリンクの悪影響に関する研究は途上のもので、明確な答えが出ていません。

ただ、多くの人が薄々感づいている通り、エナジードリンクの強い効果は、何らかの健康を犠牲にして得られる「元気の前借り」である可能性がかなり高いと考えられています。

はっきりした影響が示されない状況で、いたずらに不安を感じる必要もないでしょうが、あまりに多用することは控えた方がいいかもしれません。


参考文献

Longitudinal study links energy drink consumption to depression, anxiety and stress

Popular Energy Drinks’ Harmful Effects on Heart Revealed in New Research

元論文

Consumption of energy drinks is associated with depression, anxiety, and stress in young adult males: Evidence from a longitudinal cohort study

Relationships between constituents of energy drinks and beating parameters in human induced pluripotent stem cell (iPSC)-Derived cardiomyocytes


提供元・ナゾロジー

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