第3期習近平体制の幕開けとなる2023年は、中国経済を再び本来の成長軌道に回復させられるかが中国共産党の最重要課題となる。中国は昨秋の党大会で「経済発展」を党の第一任務に据え、大会直後から①融和外交へのシフト、②ウィズコロナ政策への転換、③不動産セクターへの金融支援強化──といったドラスチックな政策転換を矢継ぎ早に打ち出した。
習近平国家主席は、党大会後のG20やアジア太平洋経済協力(APEC)会合で積極的なほほ笑み外交を展開し、これまで経済摩擦を助長してきた戦狼外交のイメージ払拭に取り組んだ。新年の挨拶でも、台湾問題に関して話し合いを重視し歩み寄る姿勢を強調するなど、完全統一の実現を鼓舞した前年とは様変わりしたメッセージを発している。中国は、米中対立の長期化を前提に党大会で開放型経済の構築を重要施策に掲げ、米国の対中封じ込め政策を切り崩すべく、外資企業との連携強化をあらためて推進していく方針だ。
注目すべきは、これまで国内経済活動をまひさせてきたゼロコロナ政策の転換にようやく踏み切り、水際規制を含む一連のコロナ規制を全面撤廃したことだ。突然の規制解除によって、中国では北京を皮切りにすさまじい勢いで感染爆発が広がり、各地で医療逼迫などの混乱が生じている。
だが、人流や消費活動の持ち直しは予想以上に早く、北京や上海、広州などでは、22年末ごろから地下鉄や車の利用者数や娯楽施設の入場者数が急回復し、23年1月下旬の春節に向けて国内外への旅行も一気に活発化している。今後も内陸部などでは感染拡大が続く見通しながら、予想を上回るペースで景気回復の増勢が強まる可能性も出てきた。
22年末の中央経済工作会議では、23年の経済運営は金融財政政策の機能を引き続き十分発揮させた上で、ゼロコロナで落ち込んだ個人消費の回復を最優先事項と位置付けた。加えて、住宅市場の回復も強化する方針が示され、流動性不足に陥っている不動産業者への大規模資金支援も早速動き始めている。このため、今後の不動産市場は緩やかに底入れに向かうことが期待できよう。
23年は、感染が落ち着いた地域からサービスセクターを中心に消費活動が活性化し、春以降は景気回復の勢いが加速していくことが見込まれる。通年の経済成長率は5.0%程度と予想するが、ウィズコロナ社会の定着が早まれば、上振れる可能性も高まる(図表)。
もっとも、景気回復を鈍らせるリスク要因も複数存在するため、先行きはある程度慎重にみておく必要がある。今後の懸念材料として、①感染拡大が長引くことによる消費回復の遅れ、②不動産市場の回復力が期待ほど強まらない可能性、③欧米の景気減速に伴う輸出の下振れ、④インフレの再加速、⑤米中経済摩擦の激化──などに注視したい。

文・岡三証券 チーフエコノミスト(中国) / 後藤 好美
提供元・きんざいOnline
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