「ハードサイダー」や「シードル」と呼ばれるリンゴのお酒が盛り上がりを見せている。約10年前に海外の若年層の間で低アルコール飲料の需要が高まり、シードルに着目したキリンが2015年に「キリン ハードシードル」を発売。以来、国内のリンゴ農家や小規模ワイナリーが生産する事例が増え、専門醸造所も誕生。近年、取り扱う酒屋や飲食店、小売店も増加し、百貨店でも催事が行われるなど、盛り上がっていたが、とうとうハードサイダー専門の酒場が東京や大阪に登場した。感度が高い若年層を中心に拡大するハードサイダー(シードル)の今をリポートする。

世界的な低アルコールや健康志向が背景に
米国ではリンゴジュースを「サイダー」と呼ぶことから、ソフトドリンクに対して区別するためにアルコール入りのリンゴのお酒を「ハードサイダー」と呼ぶ。
一方「シードル」はフランス語。シードルはリンゴだけを原材料にする一方、ハードサイダーは原材料がリンゴ100%のものからクラフトビールのようにスパイスや茶葉といった副素材と共に醸造するものまで自由自在。同じリンゴのお酒としてここでは両者をハードサイダーと呼ぶことにする。
欧州では古くからハードサイダーが親しまれてきたが、ビール人気に押されて消費が停滞していた時期が長かったという。
しかし近年の健康志向の高まりでライトな飲み口と低アルコール、地元のリンゴで作られる地産地消を見直す時代的背景から、ハードサイダー人気が復活した。さらに米国でもクラフトビールに次ぐ注目のアルコールとして小規模生産者が作るクラフトハードサイダーが約10年前から勃興した。
日本では増殖するワイン生産者が起爆剤に

日本ではこうした海外の動きを受けて2015年にキリンがハードシードルを発売。リンゴ農家や小規模ワイナリーが追随し、少しずつ生産量が増加した。
特に国内では2008年に長野県や山梨県でワイン特区が認定され、ワイン生産者が急増したことも背景としてある。2011年、日本のワイナリー軒数は200軒だったが、2021年には400軒を突破している。
というのも、ワイン生産者がぶどうの栽培からワインという製品になるまでのタイムラグ(例えばぶどうを植えてからワインになるのは4年後。ブドウの有機無農薬栽培にこだわった場合は農薬を使っていた土壌から有機転換期がさらに4年間ある)の間、キャッシュフローをまわすため、地元のリンゴを購入してハードサイダーを作ったり、製品が完成しても順調に売れるまでの収益の柱として製造したりする例があるからだ。
特にこうした動きはリンゴの生産地である長野県や山梨県、北海道などに多いという。
これらの理由から製造量が増えて酒屋での取り扱いが増え、小売店や飲食店でもたびたび目にすることが増えたハードサイダー。
近年、各地でのイベントも増えるなど次第に知名度が上がっていたが2020年3月、とうとう東京・奥渋谷にハードサイダー専門の飲食店「Cidernaut(サイダーノート)」が、2022年5月には大阪・裏難波にハードサイダーのスタンド酒場「schwa2(シュワシュワ)」が誕生。今回は後者に話を聞いた。