ワクチン開発をするには、ある程度感染症が広がっている時期(地域)を対象にしない限り、意味のある差が出るはずもない。リアルタイムでの情報収集が不可欠だ。
コロナ感染症の経口治療薬開発は現状のままでは絶対に国内で臨床試験はできない。そもそも、タミフルやリレンザのようなインフルエンザ治療薬には発症早期に服用するようにとの注意が書かれている。臨床試験を速やかに進めるためには、リアルタイムで、どこに、どの程度の重症度の患者さんがいるのかをリアルタイムで把握する必要がある。
コロナ騒動から3年間も経つのに、残念ながらリアルタイムでの情報収集システムができたという話を聞かない。この状況でどのように対象患者を見つけるのか?
永田町や霞が関、そして大手町で、感染症対策として大きなプロジェクトが動き出している。ワクチンや治療薬を開発する方向に向かっているのはいいことだが、有効性を検証する仕組みについては全くと言っていいほど検討されていない。
日本が医学・医療分野で失地挽回を図り、国際競争力を取り戻すためには、すべてを俯瞰的に見て考えていく人材の発掘が必要だ。視野狭窄の研究者と現場を知らない役人が鉛筆を舐めながら国家予算を差配する。この仕組みが日本をダメにしている。
私が2000年前後にお世話になった科学技術庁の官僚には、大きなビジョンを理解できる人たちがたくさんいたが、今はほぼ皆無と言っていい。20〜30年後の医療の姿をシミュレーションして、将来を見据えた戦略を立て、戦術に落としこむことができるような若手研究者と若手官僚を見つけ出すことが急務だ。
今日の遅れを取り戻すために四苦八苦しているような状況では、彼我の差は拡大する一方で、日の丸の誇りは日々失われ、霞んでいく。
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2023年1月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。