可視光の99.98%を吸収し耐久性に優れた素材「至高の暗黒シート」

至高の暗黒シートは究極の暗黒シートよりも反射率が低い(光をより多く吸収する)
Credit:雨宮邦招(産総研)_光を99.98%以上吸収する至高の暗黒シート(2023)

新しく開発された「至高の暗黒シート」は、可視光の99.98%を吸収します。(つまり可視光反射率0.02%以下)

下の動画では、「一般的な黒色樹脂版」「至高の暗黒シート」「従来の暗黒シート(2019年に開発された究極の暗黒シート)」を並べて光を当てています。

左の「一般的な黒色樹脂版」では照明器具自体が反射して見えますが、他の2つでは見えません。

そして中央の「至高の暗黒シート」と右の「従来の暗黒シート」を比べると、黒色の濃さが全く異なるのが分かります。

従来の暗黒シートでは光の筋がぼんやりと見えますが、中央の「至高の暗黒シート」では、それすらありません。

至高の暗黒シートに光を当てる比較実験
Credit:産総研広報(YouTube)開発した光吸収率99.98%以上の「至高の暗黒シート」【産総研公式】(2023),産総研広報(YouTube)至高の暗黒シート(今回、左)と従来の暗黒シート(2019年、右)にレーザーポインターの光をあてている様子【産総研公式】(2023)

レーザーポインタの光が消えるほどの深い黒が実現されているのです。

さらに、さわっても崩れない耐久性をもち、今後さまざまなケースに応用できると考えられます。

さわれる素材で世界一の黒さを達成したのです。

では、至高の暗黒シートはどのような仕組みで「世界一の黒さ」に到達したのでしょうか?

「世界一の黒さ」の秘密とは?

「至高の黒さ」を生み出す2つのポイント
Credit:雨宮邦招(産総研)_光を99.98%以上吸収する至高の暗黒シート(2023)

「至高の暗黒シート」が世界一黒くなる理由の1つは、微細な凹凸構造にあります。

素材表面が、数十μmの円錐が集まった構造をしており、これが「光閉じ込め構造」として働きます。

入射光が円錐のエッジに当たると壁面で何度も吸収・反射を繰り返し、素材としての反射率がゼロに近づいていくのです。

暗黒シートの光閉じ込め構造による反射低減と光吸収の原理(左)、至高の暗黒シートの作製方法(右)
Credit:雨宮邦招(産総研)_光を99.98%以上吸収する至高の暗黒シート(2023)

反射率を小さくするためのポイントは、円錐のエッジをより小さく、壁面をより滑らかにすることです。

従来の加工技術では困難でしたが、研究チームは、高エネルギーのイオンビーム照射による加工によって、これを解決しています。

ここまでは、2019年に開発された「究極の暗黒シート」と基本的に同じです。

しかし2023年に開発された「至高の暗黒シート」では、黒さに関わるもう1つの要素に改善を加えています。

それは、シートを構成する素材の種類です。

従来の究極の暗黒シートでは、シリコーンゴムに「カーボンブラック顔料(炭素の微粒子を用いた顔料)」を混ぜ込んだ素材を使っていました。

ところが、このカーボンブラック顔料が可視光の反射率低減を制限すると判明。

カーボンブラック粒子が可視光と同じサイズかそれ以上の凝集体を作るため、光の散乱が生じやすくなっていたのです。

カーボンブラック顔料(左)とカシューオイル黒色樹脂(右)における散乱反射の違い
Credit:雨宮邦招(産総研)_光を99.98%以上吸収する至高の暗黒シート(2023)

そこで「至高の暗黒シート」では、代わりに「カシューオイル黒色樹脂」を採用しました。

これは、カシューナッツの殻から抽出したポリフェノール類を用いた素材であり、「散乱反射が極めて少ない」という特徴をもちます。

こうして完成した新しい素材には、さわっても崩れない耐久性と圧倒的な黒さが備わりました。

この「至高の暗黒シート」を利用するなら、さまざまな分野の光制御・利用技術の性能が格段に向上するでしょう。

現在研究チームは、至高の暗黒シートの実用化に向けた検討を進めています。

参考文献
光を99.98%以上吸収する至高の暗黒シート

元論文
Supreme-black levels enabled by touchproof microcavity surface texture on anti-backscatter matrix