江戸前を代表する寿司ネタながら、今や高根の花となりつつある赤貝。そんな赤貝にそっくりで、同じように美味しく食べられる安価な貝があります。

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冬が旬のサルボウガイは美味 高級寿司ネタ赤貝の代用品と呼ぶにはもったいない?

冬が旬の江戸前寿司ネタ・赤貝

冬になると様々な二枚貝が旬を迎え、美味しくなります。春から初夏にかけて産卵を迎える種が多く、冬の間に栄養をため込み大きく太ることがその理由です。

前海に干潟が広がり、二枚貝の水揚げが多かった江戸では、古くから様々な二枚貝が寿司ネタとして用いられてきました。その中でも最高峰ともいえるのが赤貝(アカガイ)です。

冬が旬のサルボウガイは美味 高級寿司ネタ赤貝の代用品と呼ぶにはもったいない?アカガイ(提供:PhotoAC)

アカガイは大きくなると大人の拳骨ほどに大きさになる二枚貝で、血中にエリスロクルオリンという赤い成分を持ち、身が赤く見えるのがその名前の由来です。

このアカガイの足をきれいに切って開き、握ったのが江戸前寿司の代名詞「赤貝の握り」です。大変な美味なのですが、いまや国産アカガイはかなり希少になってしまっており、回らない寿司屋で注文すれば1貫1000円以上してしまうことも・・。

そっくりさんの「サルボウガイ」

さて、そんな超高級貝となってしまったアカガイですが、実は「そっくりさん」がいます。それはサルボウガイです。

サルボウガイはアサリやハマグリなどの一般的な二枚貝と比べ殻のふくらみが大きいのが特徴で、このシルエットが「サルが頬いっぱいに餌を含んでいる」様子を連想させることから「猿頬貝」と呼ばれるようになったのだそうです。

冬が旬のサルボウガイは美味 高級寿司ネタ赤貝の代用品と呼ぶにはもったいない?サルボウガイ(提供:PhotoAC)

サルボウガイの見た目は本当にアカガイそっくりなのですが、アカガイと比べると殻の大きさは半分以下、体積比では数分の一ほどしかなく、アカガイのミニチュアといった見た目です。

またアカガイと比べると価格もずっと安価で、国産も庶民的な価格で流通しています。そのため代用品として用いられており、スーパーなどで手軽に買える「赤貝の缶詰」の原料に使われているのも、このサルボウガイが多いといわれています。

本家にも負けないうまさ

そんな「代用品」「偽物」的な扱いを受けてしまっているサルボウガイですが、その味はなかなか侮れません。サイズこそ小さく、また色合いもアカガイと比べ少しくすんでいますが、味はむしろ濃厚です。

サルボウガイから出る出汁も非常に美味しく、そのため西日本では現在でも、炊き込みご飯や煮つけなど出汁を生かした料理の材料によく用いられています。

冬が旬のサルボウガイは美味 高級寿司ネタ赤貝の代用品と呼ぶにはもったいない?サルボウガイの煮物(提供:PhotoAC)

一方、江戸前寿司の世界でも、サルボウガイはかつて「小赤」と呼ばれる人気のネタの一つでした。アカガイと同様、新鮮なキュウリのようなさわやかな香りがあり、歯ごたえ、甘みも兼ね備えた一級の寿司ネタだったのです。

大きくても5cmほどしかないサルボウガイは、寿司ネタに使われる二枚貝の中では小さい部類で握るのも一苦労。でも、上質な産地のものが手に入ったら是非生食したいと思わせる味をもっているのです。

ただし、サルボウガイ、アカガイともに初夏に卵を持つのですが、その卵には毒があるとされています。潮干狩りのシーズンでもあるので注意が必要です。

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<脇本 哲朗/サカナ研究所>

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