12月23日のScience誌には「Scientists tie third clinical trial death to experimental Alzheimer’s drug」というタイトルの記事があり、抗体医薬投与後に脳出血を起こした患者さんの詳細なデータが示されていました。Science誌がこの問題に大きな関心を持っていることがうかがえる内容です。すべての人に安全で、すべての人に効果がある薬は絶対にないのですが、異例の取り上げ方です。
話は少しそれますが、コロナワクチン接種後に抗体が増えない例は5-10%あると報告されていますが、90%の人の抗体価があがることは素晴らしいことだと思います。しかし、その副反応に関する噂が広がり、コロナワクチンのみならず、ワクチン全体に対する疑念を生んでいます。透明性のある客観的事実の報告が科学には不可欠です。
今回のアルツハイマー病治療薬も全員に効くはずもないし、副作用が出ないはずもありません。副作用が強く出て、効果がなければ薬としての疑問符がつくのは当然です。アルツハイマー病の場合、徐々に認知機能は落ちますが、その速さは個人差が大きいです。日によって比較的はっきりしている時も、低くなっていることもあり、認知機能は判定が難しいのが実情です。
こんな議論の中、米国FDAは昨日、この新しいアルツハイマー治療薬を承認しました。アルツハイマー治療薬の新しい幕開けとなるのか、期待が広がればいいのですが。
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2023年1月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。