バチカン市国のサンピエトロ広場で挙行された前教皇ベネディクト16世の葬儀式典をオーストリア国営放送の中継放送を通じてフォローした。9時半から11時過ぎまで100分余りのライブ中継だった。葬儀式典の進行は通常のミサに近いものだったが、生前退位した名誉教皇の葬儀はバチカンにとって初めてのこともあって、バチカン関係者の中には式典の進行で戸惑いもあったと聞く。

ベネディクト16世の棺に手をかけて祈るフランシスコ教皇(2023年1月5日、バチカン・ニュースから)

フランシスコ教皇、名誉教皇ベネディクト16世に枢機卿会議後、新枢機卿任命を報告(バチカンニュース2022年8月27日から)
葬儀が終わり、ベネディクト16世の棺がサンピエトロ広場から大聖堂入口に入っていく前、フランシスコ教皇が棺の前に立ち、祈り、手を棺に伸ばしていた姿が印象的だった。生前退位後、バチカン内のマーテル・エグレジェ修道院で生活してきたベネディクト16世を定期的に訪ねてきたフランシスコ教皇にとって、ベネディクト16世の死は大きな空白となったはずだ。「兄弟」と呼び、学者教皇を尊敬してきたフランシスコ教皇にはベネディクト16世の存在は大きな精神的支えとなっただろう。同時に、教会改革に乗り出そうとするフランシスコ教皇にとって、保守派ベネディクト16世はやはり無視できないハードルと感じたこともあったはずだ。
ベネディクト16世が昨年12月31日、95歳で死去した時、1人のバチカン専門家が「フランシスコ教皇時代がこれから始まる」と述べていた。第266代教皇のフランシスコ教皇は既に10年、その職務を担当してきたが、南米出身の教皇には生前退位したベネディクト16世の影がいい意味でも悪い意味でも常にあった。“ペテロの後継者”ローマ教皇の職務は孤独だといわれる。南米出身で根っから明るいフランシスコ教皇はその陽気さを年々失い、教皇の座の重さで顔を曇らすことが増えてきたといわれる。
カトリック教会では聖職者の未成年者への性的虐待事件が多発し、その対応で教会指導部は混乱している。信者からだけではなく、教会指導部内からも刷新を求める声が高まってきた。ローマ教皇フランシスコは2019年6月、通称「シノダルパス」と呼ばれる教会改革のプロセスに号令をかけている。教会の刷新案として、ローマ教皇を中心とした「中央集権制」の見直し(現場の司教会議の重視)、聖職者の性犯罪防止、聖職者の独身制の再考の他、LGBT(性的少数派)、同性愛者に対する教会の開放、女性信者を教会運営の指導部に参画させるなど、従来の教会の基盤を大きく震撼させるテーマが控えている。教皇一代で全て解決できる問題ではない。教会内の保守派聖職者からの強い抵抗が考えられる。