コロナ禍を受けて、百貨店や商業施設の運営においてもデジタルトランスフォーメーション(DX)による業務の革新は不可避であり、デジタルの力で既存業務の何をどう変えていくのか、実際に取り組んでいくフェーズに入っています。今回は、「東武百貨店 池袋本店」(東京都豊島区)の事例を基に、百貨店運営における新しいDXの潮流について考えてみたいと思います。

東武百貨店が自社社員だけでなく取引先従業員の情報格差をDXで改革したワケ
(画像=東武百貨店 池袋本店、『DCSオンライン』より引用)

DXは消費者向けから従業員向けまで

百貨店業界におけるデジタル化は「対消費者」から始まりました。消費者にはコロナ以前からオンラインでの購買体験が浸透していましたが、さらにオムニチャネル、次いでOMO(オンラインとオフラインの融合)というコンセプトが付加されていきました。

最近ではコロナ禍を経て、バックオフィス業務の効率化に着目する企業も増加し、DXの方向性も「対従業員」へとシフトしています。たとえば、百貨店という同じ館に多くの従業員が勤務するなかで、一人ひとりに対して、正確な情報をいち早く伝えるためにもデジタルツールの活用が不可欠です。DXによってアナログ作業にかかっていた手間と時間を軽減することで、バックオフィスの人員を増やすことなく業務効率化が可能になるためです。

東武百貨店のDXにおける4つのポイント

8万3000㎡の売場面積を誇る「東武百貨店 池袋本店」はデジタルツールの導入により、「デジタル入館証の導入による、従業員入退館管理のペーパーレス化」、取引先従業員向けの「ダイレクトな情報配信」「業務マニュアルの搭載」「福利厚生情報の電子化」に取り組んでいます。

東武百貨店は「新しい百貨店運営」を考えるうえで、自社社員だけでなく取引先従業員も含めた売場を担うすべての従業員への情報伝達をデジタルでアップデートすることにより、「就労体験価値の向上」を企図しています。 

デジタルツールの導入以前、新たに勤務する従業員の情報は取引先から、その都度書面で提出されたものをPCで手入力したり、警備員が目視で入退館管理をしていました。そのため作業効率が悪く、また、間違いや見落としなどが発生するおそれがあったのです。

また、入館証の発行業務はもちろん、その棚卸しや更新業務、新入従業員向けの研修の日程調整なども大型施設ともなれば相当な時間と手間を要し、その「見えないコスト」が積算することで無視できないものになっていました。東武百貨店はそこにメスを入れ、業務効率化を進めたうえで、従業員がより働きやすいように必要な情報やマニュアル、福利厚生情報にいつでもアクセスできる環境をワンストップで実現できるツールを導入したのです。

東武百貨店が自社社員だけでなく取引先従業員の情報格差をDXで改革したワケ
(画像=東武百貨店は入館証を電子化した、『DCSオンライン』より引用)

まず、書類をやり取りしていた入館証をデジタル化することで手続きをペーパーレス化し、発行などの管理業務が大幅に削減されました。入退館の打刻は、従業員通用口に設置したタブレット端末でアプリ上のQRコードを読み取り、いつ誰が通過したかをリアルタイムで管理できるようになりました。

各従業員に発行されている個人IDの管理(採用・退職など)は、取引先と百貨店担当者で分業できる仕組みになっており、システム上で一定期間利用がないユーザーのIDを強制的に無効化することなども可能となっています。その結果、数千人に及ぶ取引先従業員のID管理が最小限の本部人員で実現できるようになりました。