いわゆるラーメン店によるラーメン業界の市場規模はコロナ禍前の2019年には8000億円程度あったのではないかと推測されている。その後2020年、2021年は大きなダメージを受けて7000億円台まで縮小したのではないかと見られている。市場規模拡大といっても、いよいよラーメン1杯1000円時代の到来が近いのではないかと言われているように、単価アップがその最大要因であろう。
意外にも上場企業が多い。業界トップのハイデイ日高(「日高屋」がメイン。年商250億円)、第2位の幸楽苑(年商250億円)、第3位力の源ホールディングス(「一風堂」がメイン。年商193億円)、第4位丸千代山岡家(「山岡家」がメイン。年商151億円)、第5位ギフトHD(「町田商店」がメイン。年商134億円)、第6位物語コーポレーション(「丸源ラーメン」がメイン。年商107億円)がラーメン関連店舗売り上げが100億円以上の上場企業で、この他の上場企業には王将フードサービス(「餃子の王将」)、JBイレブン(「一刻魁堂」)、ハチバン(「8番らーめん」)、ワイエスフード(「筑豊ラーメン」)、イートアンド(「よってこや」)などがある。海外展開や美容室、カラオケ、焼肉屋などの多角化をしている企業が多い。株を買って株主になれば無料飲食券などの優待サービスがあるのは言うまでもない。
以上がラーメン業界の最近の動向だが、「産業としてのラーメン」とは別に、このラーメンの世界でのお楽しみは、「マイ・ベスト・ラーメン」というラーメン好き同士のケンケンガクガクだ。本稿では、私が2022年に実際に食べたラーメンのベスト10を業界の話題とともにまとめてみた。
第1位:「蔦」(つた/代々木上原)
2016年秋に発行された「ミシュランガイド東京2017」において、ラーメン店として初の1つ星に輝いたのが当時巣鴨にあった「蔦」である。これはちょっとした事件だった。B級グルメと思われていた「ラーメン」がちゃんとした料理と認定されたのだ。すでに大行列店になっていたが、このミシュラン1つ星で「蔦」の大行列は限界に達して、ついには代々木上原の現店舗へ2019年12月に移転していた。私が「蔦」を初めて訪れたのは今年6月15日水曜日の14時頃。これがなんと全く行列なし。ツイッターで最近は行列がないという情報を得てはいたが、地下に降りて行って店に入ると、広い店内のテーブル席に6人、私が座った15席ほどのカウンターには客が全くいなかった。「あの大行列店」の「蔦」がこんなになってしまったのかと驚いた。食べたのは1400円の醤油soba。鶏油やトリュフオイルなどの調味オイルを使っているようだが、膝を打つような旨さを感じることができなかった。その後、店主の大西祐貴氏が急性心不全で9月23日に死去。43歳だった。死亡記事によると、大西氏は高校卒業後、藤沢で父が営むラーメン店「七重の味の店 めじろ」で4年修行。その後一度アパレル会社などに勤務後、5年間はラーメンの現場から離れていたが、再び「めじろ」で3年間修行し、2006年に独立し「蔦」をオープン。ミシュラン1つ星を初めて手にしたラーメン料理人という栄誉とともに天国に旅立ってしまった。
第2位:「中華そば 銀座八五」(はちごう/東銀座)
上述した「蔦」は、代々木上原の移転とともに、ミシュランの1つ星店ではなくなった。ミシュランガイド2022年のラーメン部門で1つ星の3店は以下の3店だった。
・「創作麺工房 鳴龍(なきりゅう)」(大塚)
・「SOBAHOUSE 金色不如帰(こんじきほととぎす)」(新宿御苑)
・「中華そば 銀座八五(はちごう)」(東銀座)
このうち「八五」はビブグルマンからの昇格だが、一度でもこのラーメンを食べたことのある人にとって、この昇格は当然の成り行きだった。しかし、2022年3月16日にこの「八五」を含む株式会社勝本が東京地裁から破産手続きの開始決定をうけ倒産するという驚くべき事態に陥ってしまった。しかし、株式会社Food Operation Japanという企業が運営することで、水道橋の「中華そば勝本」に続いて「八五」も5月27日に営業再開になった。神保町の「神田 勝本」も再開予定だという。ただし創業者の松村康史社長は顧問に退いている。ともあれミシュラン1つ星の「八五」が復活したのはメデタイことではある。しかし、3店とも行列ができる繁盛店であり、コロナ禍で集客が苦しかったとはいえ、こんなに簡単に破産してしまうのか?ラーメン屋経営の難しさを実感してしまう。ちなみに最低価格の「中華そば」は以前の850円(「八五」という店名にちなんだのか)から再開後1100円に値上げされていた。
文・三浦彰/提供元・SEVENTIE TWO
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