10Xのミッションとは

──現在、10Xが掲げているミッションはどのようなものでしょうか。

 矢本 当社では「非連続(10x)な価値を社会に実装する」ということをミッションとしておりまして、実は「ネットスーパーをものすごく広げていこう」ということだけをめざしているわけではありません。

 ①人、あるいは企業が抱えている問題を見つけて、②その解決のために技術を組み合わせたアプローチを試み、③最終的に大きな市場に挑戦する、という3つの掛け算を行っていくことが当社のミッションです。

 当社では、スーパーマーケットやドラッグストアなどのチェーンを対象とした小売ECプラットフォーム「Stailer(ステイラー)」事業を展開していますが、同事業では「今、世の中にない購買体験を新たにつくって、広めていくこと」をコアとしています。ネットスーパーを中心とした消費者の買物体験を非連続に変えていくことをめざしているというわけです。

──現在のネットスーパーを取り巻く環境をどう捉えていますか。

 矢本 コロナの影響もあって風向きが大きく変わり、ネットスーパーに対して腰を上げる小売業が増えました。業界が変革していく瞬間に立ち会えているとポジティブに感じています。

 一方でネットスーパーを検討するうえで無視できないのが収益性の問題です。ネットスーパーの収益化には、小売業はこれまで行ってきた既存ビジネス上の創意工夫とは異なる、まったく別の能力が必要になります。

 ネットスーパーでは1回の注文でだいたい20~25点の商品を運びますが、それらを3温度帯で明確に区別し、パッキングをして、積み荷をし、さらに最適なルートでの配達する、といった具合に、これまで小売業が経験してこなかったオペレーションを行わなければなりません。また、リアル店舗の運営とは異なり、ネットスーパーでは在庫を完全に管理・予測し、お客さまに提示していくことが肝となります。

 このように、従来とはまったく違うものを吸収し、つくり込むことができないとネットスーパーで成功するのは難しいでしょう。

ネットドラッグストアも始動!

──2022年1月にドラッグストアの薬王堂(岩手県)が、10Xのステイラーを通じてラストワンマイル配送を開始するなど、「ネットドラッグストア」の取り組みも始まっています。

矢本 ドラッグストアやそのほかの業態の企業にも、われわれのサービスに対してニーズを感じていただいていると手応えを感じています。直近では、スギ薬局(愛知県)の「スギスマホオーダー」においてOTC医薬品を含む取り扱い商品を自宅まで即日で配達する新サービスを22年9月から開始しています。

 ドラッグストアでのEC配達はまだ走り始めたばかりのサービスですが、既存のBOPIS(Buy Online Pick-up In Store:店舗受け取り)のみの展開よりも注文数が増加し、また購入される商品が変化していることも見えてきています。現在は、「ネットドラッグストア」ならではの体験価値やニーズをパートナー企業と一緒に探している状態となります。

 ドラッグストアは、規制や時流によって商売の環境が大きく変化するという業界特性があると認識しています。誰も解いたことのない問題と今まさに対峙しており、日本、あるいは先進国の中でも一歩先駆けた事例を小売業の皆さまと一緒につくっていけると、わくわくしています。

10X矢本真丈CEOに聞いた、ネットスーパービジネスの未来
(画像=10Xの「Stailer(ステイラー)」は、スーパーマーケット大手ライフコーポレーションが導入していることでも知られる,『DCSオンライン』より 引用)

──スーパーマーケットとの取り組みはいかがでしょうか。

矢本 10Xは都心型のネットスーパーをやっている企業とみられることが多いですが、2022年9月末には長野地盤のデリシアにステイラーを導入していただくなど、地方を本拠とするスーパーマーケット企業との取り組みも始まっています。今後も、ローカルエリアでのプラクティスやナレッジ、そしてそれらに耐えうるプロダクトをつくっていきたいと考えています。

──最後に、小売業に対して期待することについてお願いします。

矢本 小売業各社はネットスーパーやDX(デジタル・トランスフォーメーション)推進は逃れられない経営アジェンダの1つになっていると思います。

 日本は人口減少社会です。そのような状況下、小売業はインフラとして残り続けなければならない、ラストマンシップが求められています。そのときに武器になるのがネットスーパーではないかと思います。「お店」という資産を活用して、普段買いに来られないお客さまに商品を届け、自店のカバーする商圏を広げられるというのが当社の提供するネットスーパーの価値です。

 ネットスーパーに対してどのようなスタンスをとられるかは企業次第ですが、われわれはあくまでそれを後ろからご支援するパートナーという立ち位置で、ご一緒させていただきたいと考えています。

提供元・DCSオンライン

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