多くの人は、「ドローンで荷物を配達する」というアイデアを未だ現実的にはとらえていません。

しかし新しい研究によって、ドローン配達が環境面で大きなメリットをもたらすことが明らかになりました。

アメリカ・カーネギーメロン大学(Carnegie Mellon University)土木環境工学科に所属するティアゴ・ロドリゲス氏ら研究チームが、ドローン配達は、ディーゼルトラックを利用した従来の配達よりも、小包あたりの二酸化炭素(CO2)の排出量が84%少ないと発表したのです。

ドローン配達に関しては多くの検討がされていますが、単純に配送の効率化という以外にも、環境に配慮した活躍が期待できるのかもしれません。

研究の詳細は、2022年8月5日付の学術誌『Patterns』に掲載されました。

配達の「ラストワンマイル」がもたらす環境問題

近年では、ほとんどの人が「Amazon」や「楽天」などの大手サイトを利用して商品を配達してもらいます。

そのため貨物輸送の需要が高まっており、同時にCO2排出量の増加が大きく取りざたされるようになりました。

実際アメリカでは、貨物輸送が運輸関連(旅客・貨物の輸送に関わるすべて)のCO2排出量の3分の1を占めていると言われるほどです。

ドローン配達の需要が高まっている
Credit:Canva

CO2排出量の増加の問題は、運輸における「ラストワンマイル」とも大きく関わっています。

ラストワンマイルとは、目的地に到達する前の課題の多い「最終区間」を指します。

例えば、「Amazon」や「楽天」事業における目的地は、私たちの個人宅であり、最終区間は「地元の集配所から個人宅までの区間」になります。

長距離輸送では通常、船や飛行機、大型トラックなどでまとめて荷物を運べます。

しかし最終区間では、目的地が一気に増加。

個人宅1件1件に直接届けるため、荷物を積んだトラックと配達員が1日中走り回らなければいけないのです。

日本では配達員の負担が大きな問題として取り上げられていますが、同時に「巡回トラックによるCO2排出量」の問題も見過ごせません。

ラストワンマイルを配達するドローンがCO2を84%削減する

ラストワンマイルの煩雑な配送を解消する方法として、最近では「ドローン配達」に注目が集まっています。

集配所から個人宅までの最終区間で、トラックを走らせるのではなくドローンを利用するというのです。

実際にAmazonなどでは既にドローンやロボットを利用した配送テストが行われているようです。

そして新型コロナウイルスの影響もあり、配達業者を介さない方法に対して、利用者の側にも肯定的な意見が増えてきました。

実際、2020年の半ばに実施されたポートランド州立大学(Portland State University)の調査によると、60%以上の人が「自律型ロボットによる配達に対して追加料金を払う意思がある」と答えました。

こうした背景にあって、ロドリゲス氏ら研究チームは、ラストワンマイルにおける配達ドローンのCO2排出量とエネルギー消費量を調査し、他の配達方法と比較することにしました。

今回の実験では、4つのローターをもつ「クアッドコプター」に0.5kg以下の小包を取り付け、毎秒4~12mの速度で飛行させました。

このドローンは電気で動くためCO2を排出しませんが、代わりに消費した電力を算出し、その電力分を発電する際に排出されるCO2量を「CO2排出量」としています。

配達方法別の小包あたりのエネルギー消費(左)とCO2排出量(右)
Credit:Thiago A.Rodrigues(Carnegie Mellon University)et al., Patterns(2022)

その結果、小包あたりのドローン(上図のVery small quadcopter drone)のCO2排出量は、ディーゼルトラック(上図のMedium duty diesel truck)の排出量に比べて84%少ないと分かりました。

また、エネルギー消費量もディーゼルトラックと比べて最大94%少ないと判明しました。

ただし研究チームによると、「ドローンは1度に1つの荷物しか運べないため、多くの荷物を運ぶ場合は、1台のトラックよりもエネルギー効率が悪い場合がある」ようです。

1つの家に複数の小包を届ける場面では、何機ものドローンを飛ばすよりは、トラックでまとめて持っていった方が効率的なのです。

また、電気自転車を使った配達や自転車を使った配達は、ドローンよりもエネルギー消費量とCO2排出量を削減できるようです。ただしこの場合は当然、配達員の負担は増大すると考えられます。

こうしたエネルギー効率の調査は、「小包1つしか配達できないドローンと、人間の配達員をどのように使い分けるか」を決定する際に役立つ可能性もあります。

ドローン利用による、配送の効率化とCO2削減効果には目を見張るものがあります。

ドローンも交えた柔軟な配達方法が確立されれば、配達員の負担削減とともに環境問題に対しても多くのメリットが得られるでしょう。

ドローンの配達にはまだ不安の声も多く聞かれますが、さまざまなメリットを考慮するとドローンが荷物を届けてくれる将来も、そう遠くないのかもしれません。

参考文献
Drones bearing parcels deliver big carbon savings

元論文
Drone flight data reveal energy and greenhouse gas emissions savings for very small package delivery