生物の設計図であるDNAは、ナノサイズのオブジェクトを作るのに役立ちます。

アメリカ・デューク大学(Duke University)コンピュータ科学部に所属するダニエル・フー氏ら研究チームは、DNA鎖を使って壺や皿、空洞球体のような、やや複雑で丸みをおびた物体を作成することに成功しました。

それぞれの物体はわずか10~50nmほどの極小サイズであり、ものづくりの新たな扉を開く可能性があります。

研究の詳細は、2022年12月23日付の科学誌『Science Advances』に掲載されました。

DNA鎖を利用したオブジェクト作り

DNAは4種類の塩基で構成されている
Credit:Canva

DNAは主に「塩基」と呼ばれる物質で構成されています。

そしてこの塩基には、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4種類があり、それぞれが鎖のように繋がって並んでいます。

この塩基の配列が「生物の設計図」を示しており、並び方によって、作られるタンパク質の性質や働きが変わってくるのです。

つまり塩基は、遺伝情報を記すための「文字」であり、それが書き連ねられたDNA鎖は「文章」のような存在です。

しかし塩基やDNAが物質である以上、「遺伝情報を記憶する」以外にも、もっと物理的な使い方ができるようです。

DNAそのものを建築材料のように扱い、オブジェクトを作成できるのです。

実際、研究者たちは1980年代からDNAを用いた極小サイズのオブジェクトを作成してきました。

紐を重ねてオブジェクトをつくるイメージ
Credit:Canva

その方法とは、細長い紐とホチキスで立体的なオブジェクトを作るのに似ています。

長いDNA鎖を折り畳んで立体的な形を作った後、短いDNA鎖で「ホチキス止め」するのです。

これにより、立方体、ピラミッド型、球体など、シンプルな形状のオブジェクトが作成されました。

では、もっと複雑な形状を作成することは可能なのでしょうか?

丸みをおびた「ナノサイズのオブジェクト」作成に成功

フー氏ら研究チームは、「DNAxiS」というソフトウェアを開発

DNAxiSは一種の設計支援ツールでありDNAを使った立体的な構造物を作成する手助けをしてくれます。

今回の研究では利用して、既存の角ばったものより複雑な、丸みをおびたDNAのオブジェクトを作成しました。

その作成方法は細長い粘度を使った土器作りにも似ており、まずは長いDNAの二重螺旋をリング状にします。

そして大きさが異なるリングをいくつも重ねていくことで、「中が空洞で、なめらかな曲線を有するオブジェクト」が成形されます。

オブジェクトの作成方法。長いDNA鎖のリングを重ねて、短いDNA鎖で「ホチキス止め」
Credit:Daniel Fu(Duke University)et al., Science Advances(2022)

特定の部位を、リングの層を増やして補強することも可能です。

とはいえ、この状態ではそれぞれのリングがバラバラで連結されていません。

そこで「短いDNA鎖」でホチキス止めする必要があります。

ただしフー氏が述べるように、「ホチキス止めの数が少なすぎたり、位置が悪かったりすると、オブジェクトは正しく成形されません

表面が丸みをおびているので、ホチキスの適切な位置を発見するのが非常に難しいのです。

「DNAxiS」が短いDNA鎖によるホチキス止めの適切な位置を提案
Credit:Daniel Fu(Duke University)et al., Science Advances(2022)

そこで役立つのが、ソフトウェア「DNAxiS」です。

作成したいオブジェクトの形状を入力すると、コンピュータがDNA鎖の正しい配置を提案してくれるのです。

研究チームは、この新しい方法によって円錐、壺、空洞の球体、キノコ、四葉のクローバーなど、丸みをおびたさまざまな形状のオブジェクトを作成することに成功しました。

しかもそれぞれのオブジェクトのサイズは10~50nmです。

一般的なものさしの最小メモリは1mmですが、そのわずかな隙間に花瓶型やキノコ型の容器が数万個収まるのです。

ナノサイズのやや複雑な形状を作成可能
Credit:Daniel Fu(Duke University)et al., Science Advances(2022)

このような極小オブジェクトは、さまざまな可能性を秘めています。

例えばこの技術を利用して、薬を運ぶための小さな容器を作れるかもしれません。

また、太陽電池や医療用画像処理のための「特定の形状をした金属ナノ粒子」を鋳造する鋳型を作れる可能性もあります。

研究チームは、「今回の技術が実用化されるのは何年も先だろう」と述べています。

それでも、ものづくりの新しい扉が開かれたのは事実であり、今後の進展を楽しみにできます。

参考文献
DESIGNING WITH DNA

元論文
Automated design of 3D DNA origami with non-rasterized 2D curvature